「……俺が間違ってるだと?」

 三神さんは壁から身を起こし、一歩私に近付いた。

「……だってそうでしょ? 早妃さんの不幸を全て私のせいにしてるけど、おかしいと思わないの? 一番悪いのは実際危害を加えた相手でしょ? それに早妃さんが精神的に弱ってるなら、私に復讐するより彼女を支えるべきじゃないの?!」

 私の叫びに、三神さんが息をのむのが分かった。

「私に復讐するのは、現実から逃げてるからじゃないの? 危険な相手に手は出せないから全て私のせいにしてるんじゃないの?!」

 外見の雰囲気は違うけど、三神さんの考え方は海藤と同じなんだろうと思った。一番力の無い私を、理由をつけて攻撃する。
 大切な人を傷付けられた三神さんに同情しながらも、それ以上の怒りを感じていた。

「私を痛めつけて気が晴れるんだとしたら、三神さんはおかしい……昨日私を探しに来た人を追い返した時何も感じなかったの? こんな復讐をする程憎んでる私よりもっと酷いことをしてるのに!」

 怒りのまま一気にまくし立てると、三神さんは顔色を変えた。

「黙れ!!」

 大声を上げると、私の目の前までやって来て片膝をついた。

「調子にのってペラペラと……俺に意見出来る立場だと思ってるのか?!」

 低く凄みの有る声で言われて背筋が冷たくなった。
 怖い……今にも殴られそうな気がして、体が震えてしまう。
 
 それでも、こんな理不尽な仕打ちに屈したくなかった。
 ここで退いたらそれこそ海藤や三神さんと同じ卑怯者になってしまう。

「自分の立場はちゃんと分かってる……私はこんなことをされる人間じゃない!!」

 三神さんから目をそらさずに叫んだ瞬間、強い衝撃を受けた。

「っ……」

 一瞬何が起きたのか分からなかった。
 けれど、口の中に錆びた味が広がっていくのと、頬の熱さで、思い切り殴られたんだと気付いた。
 視界の隅に、三神さんが再び腕を振り上げる姿が映る。
 衝撃に備え、固く目を瞑ったと同時に、ブザーの音が響き三神さんの体がビクッと揺れた。

 恐る恐る目を開く。
 三神さんは、険しい目で玄関を見据えていた。
 その間にもブザーは鳴り続ける。

「……昨日の男か?」

 三神さんは舌打ちをしながら、昨日と同じ様に私の手を拘束し、声も出せないようにした。
 それから立ち上がり、玄関に向かっていく。私は震えながら、その後ろ姿を見送った。