早妃さんは、ただ恋人に暴力を振るわれていただけでは無かった。

 三神さんが私の部屋に来た時、どこかに連れ出されて酷い目に遭っていた。
 きっと今の私より辛くて、助けを必要としていたに違いない。
 それなのに私は……。

「ごめんなさい……」

 混乱しながらも、ただ謝罪することしか出来なかった。
 けれど三神さんが私を許す事は無かった。

「その程度の謝罪じゃ君を許せないよ」

 感情の無い声でそう言うと、私を置いて部屋を出て行った。
 
 一晩中、寝ないで三神さんと早妃さんのことを考えた。
 過去の自分の罪。それによる影響。今の私の現状。
 何度も何度も考えた。

 そうしている内に、私の心境も変化していった。
 早妃さんを思い出した時は混乱して、ただただ申し訳無い気持ちでいっぱいだった。
 けれど、今は罪悪感だけでは無くなっていた。強い感情が、弱った体を満たしていた。


 翌日、朝早くに三神さんは戻って来た。
 いつもと同じ様に、私の前に小さなパンと水を置き反対側の壁に寄りかかる。
 私は与えられた物には目を向けず、三神さんに視線を送った。

「何? 食事の前に早速謝罪してくれるのか?」

 蔑む様な三神さんの目を、怯まずに見つめ返し昨夜から決心していた思いを伝えた。

「私は、もうあなたに謝ったりしない」

 はっきりと言い切る私を見て、三神さんは不快そうに顔を歪めた。

「どういう意味だ? 助かりたくないのか?」
「正直に言えば、こんな所にこれ以上居たくない……でもあなたに頭を下げることは出来ない。だって三神さんが間違ってると気付いたから。助かりたいからと言って心にも無い謝罪なんてしたくない!」

 強い口調でそう告げる私を、三神さんは驚愕して見つめた。

「昨日とは随分態度を変えたな」

 鋭い目で私を睨む。

「一晩考えて、気付いたの。私が謝るべき相手は早妃さんで三神さんじゃないって」

 私の言葉に三神さんは、目を細めた。

「確かに私が三神さんの訴えをもっと真剣に聞いていれば、早妃さんを早く見つけ出す協力を出来たかもしれない。彼女には悪いことをしたと思う……でも三神さんからこんな仕打ちを受ける筋合いは無い」
「……全く反省して無い訳だ」

 冷え切った中にも怒りの宿った三神さんの声。恐怖に負けない様に、手を握り締め話を続けた。

「三神さんに対して反省することなんて何も無い……間違ってるのは私じゃなく三神さんでしょ!」