今の三神さんの姿は、過去の私の姿だった。
 当時の私は……いくら直樹の件で落ち込んでいたからって、あまりに冷酷な態度だった。

 必死に助けを求めてる人がいるのに、その姿を目に入れようとはしなかった。
 過去の自分の行動に愕然とする。
 同時に何故そんな態度を取ったのか思い至り、吐き気がこみ上げた。
 
 あの頃の私は本当に一人だった。
 父が亡くなって、一年も経っていないのに、恋人と妹からの酷い裏切りを受けた。
 今よりももっと孤独で辛くて仕方なかった。
 幸せな人達を、誰かに大切に愛されている人を妬んでいた。どうしようもなく歪んでいた。

「いい加減にして下さい。帰ってくれ!」

 三神さんの荒げた声が響き、続いて乱暴にドアを閉める音が聞こえて来た。
 大きな溜め息と共に、足音を立てて三神さんが戻って来る。

「……驚いたな、倉橋さんが泣くなんて」

 私の顔を見た三神さんは、疲れた様に言った。

「君を探しに来る人間が居たのにも驚いた、君については完璧に調べたつもりだったけど彼の存在は知らなかった」

 三神さんは私の手と口の拘束を外しながら言った。

「何か言うことは無いのか?」
「……思い出した……以前三神さんに会った時のことを」

 震える声で言うと三神さんは、目を見開き私を凝視した。

「……それで?」
「私が悪かった。三神さんは必死で彼女を探してたのに、私は取り合わずに追い返してしまって……」

 私の言葉を聞くと、三神さんは顔を歪めた。

「やっと思い出したのか……言っておくけど、あの時の君は酷かったよ」
「ごめんなさい……でも言い訳になるけど、あの時の私はおかしかったの。いろいろ有って余裕も無かった」
「本当に言い訳でしかないな。あの時君が協力してくれたら早妃は無事だったかもしれないっていうのに」

 三神さんの言葉に、私は身を強張らせた。

「無事だったかもしれないって……彼女は今どうしてるの?」

 暴力的な男と別れたから、このアパートを出たんじゃ無いのだろうか。

「今は家に戻って来てるよ。このアパートを無理やり出されて散々連れまわされた後、捨てられていたのを発見されたんだ。早妃はショックで精神的におかしくなってしまったよ。もっと早く見つけていれば……後悔しかないよ」
「そんな……」

 思っていた以上に深刻な早妃さんの現状に、私は動揺を隠せない。事態は私が思っていたより酷かった。