「あなたは誤解してるようですが、彼女は人からの連絡を無視し続けるような人じゃ無い。確かに愛想は無いけど、礼儀正しい人です。その彼女が音信不通になったのだから、何かトラブルが有ったに違いないんです。どうか真剣に考えてくれませんか?」

 必死な声が聞こえて来る。ミドリの言ってくれた言葉に、胸がいっぱいになり目の奥が熱くなった。

 彼には、散々冷たい態度もとったし、信用出来ないと拒絶もした。
 それなのに、今私の為に時間を割いて、必死に探してくれている。私を信じてくれている。
 三神さんの前では絶対に泣かないと決めていたのに、涙が零れ落ちるのを止められない。

「いい加減にしてもらえますか?」

 三神さんの低い声が聞こえ来た。

「何も知らないと言ったでしょ?」

 まだ口調は丁寧ながらも、その声には怒りが籠もっていた。

「手、離してもらえますか?」

 ミドリは、ドアを閉められないように押さえているのだろうか。
 そこまでするなんて……彼の身が心配になって来る。
 
 三神さんが本性を出して、手荒な真似をしたらどうしよう。
 蓮はともかく、ミドリが暴力的なことに慣れているとは思えない。
 助けて欲しいけど、彼を危険に巻き込みたくない。
 息をするのも忘れる位、緊張しながら様子を伺っていると、ミドリの抑えた声が耳に届いた。

「すみません、少し冷静さを失ってました」
「……もういいですか」

 うんざりとした様な三神さんの言葉に、ミドリは被せるように言った。

「今日は帰ります。ですが何か分かったら連絡下さい。これは連絡先です」
「……こういうの迷惑だって言ったでしょ?」

 断ろうとする三神さんに、ミドリは苛立ったような大声を出した。

「頼みます、彼女がいなくなったのはどう考えもおかしいんです。どうしても探したい! お願いです。協力して下さい!」

 ミドリの必死に訴える声。胸が苦しくなると同時に、突然一つの光景が目の前に広がった。それは忘れていた記憶。
 次々と蘇って来るそれに、私は体の震えを止められなかった。

『どうしても探し出したいんです、協力して下さい!』
『私は関係有りません、警察にでも相談したらどうですか?』

 必死に訴える声に、冷たく答える声。
 それは私と三神さんが初めて会った時の会話だった。

 どうして忘れてしまっていたのだろう。

 三神さんは、今のミドリの様に三神早妃さんを探して私の部屋にやって来ていたというのに。
 それを私は、ろくに相手もしないで追い返した。