雪香の問題に巻き込まれなければ、何も問題無いと。直樹と別れた時、誰も信じず頼らずに生きて行こうと決めた。
 実際、人と関わらない様にしていたし、他人に関心なんて持たなかった。
 まさか、無関心さが原因で強い恨みを持たれるなんて……。
 
 蓮に助けてもらって親しくなって、本当は誰かに側に居て欲しいと思っていた自分に気付いたところだったのに。
 新しく生活を始めたら少しは変わりたいと思ってたのに、それも叶わないのだろうか。
 そう思うと怖くて仕方なかった。


 夜が明けた頃、三神さんは戻って来た。
 
「眠れなかったみたいだね」

 身を起こして、壁にもたれる私を見ながら言うと、片膝をついて座り足枷を外した。
 どういうつもりなのか?
 出方を伺う私に、三神さんは軽い調子で言った。

「シャワーを浴びて来たら?」
「は?!」

 この状況で有り得ない言葉に、私は目を見開いた。

「まだしばらくここに居て貰うけど、シャワーも浴びないんじゃ汚いだろ? それにトイレにも行きたいんじゃないか?」

 その言葉を聞いた瞬間、私は三神さんから目をそらした。
 そんなことまで管理されるなんて、屈辱と羞恥心で耐えられなくなりそうだった。

「……いつまでこうしてる気?」

 震える声で問うと、三神さんは片眉を上げた。

「君が自分の罪を思い出し、心から謝罪する迄」
「無関心だったことは……」

 謝る、そう言うとしたけれど三神さんに遮られた。

「口先だけの謝罪は受付けない……そうだな、最低でも俺と会った時のことを思い出さないと駄目だ」
「……」
「早く行って来たら?」

 冷たい目で見下ろされ、私はノロノロと立ち上がった。
 駄目だ。話が通じない。いくらここに居たって、過去の事を思い出せるとは思えないのに。

 このままではいつまでもここから出られない。
 鍵のかかった玄関のドアを目にしながら、逃げるのは今しかないないと思った。
 背中に三神さんの強い視線を感じる。緊張のあまり鼓動が激しくなる。
 それでも、私はこの空間の出口に向け、走り出した。

 後少しでドアに手が届くと思った途端、頭に激痛が走った。
 あっと思った時には、仰向けの状態で床に打ちつけられていた。
 背中に受けた衝撃で、上手く呼吸が出来ない。
 何が起きたのか、すぐには理解出来なかった。

「逃げ出せると思った?」

 呆然としてる私を、上から覗き込む歪んだ顔があった。