もしも逆上して、複数人で由菜に襲いかかったりしたら……
(どうする?どうすればいい)
男は、刃物をチラつかせながら由菜に言う。
「だ、だって来栖さん、婚約者のこと好きなわけじゃないんでしょ?
じゃあ、ちゃんと君を愛してる僕を選べばいいじゃないか」
「確かに、婚約者に恋愛感情を抱いてはいない、とは言ったわ。
でも、だからってあなたを好きになったりしない!」
「どうしてだい?ぼ、僕はこんなに君を愛しているんだよ?
それにうちには金がある。君の家族だって、うちと繋がりができた方が喜ぶはずだ」
「そんなことは絶対にないっ!」
由菜と男会話を聞いた琥珀は、前日のことを思い出した。
『その人、断られたら物凄く絶望した顔してさ。かと思ったら『呪ってやる』とか『殺してやる』とか言ってきて……』
(そうか、この男が)
その時由菜は実害はないと言っていたが、今は事情が違うらしい。
周りの男は金で雇った家来といったところか。
(愛情が憎しみに変わる、か。
自分のことを愛した者から、命を狙われる。
何とも笑えない話だ)
由菜の顔が恐怖で引きつっている。
ここで由菜だけを攫い、逃げるのは可能だ。
だが、そうなると後日再びこのような状況になる可能性が高い。
やはり多少痛めつけておかなければならないだろう。
そう思い、近づこうとした瞬間、ある光景が頭の中によみがえった。