「同じ空間にいても存在を認められないというか認識されないというか」
 それはわかる。僕もどちらかと言うとそちらのタイプだ。
「そういう属性の側の人間は、往々にして笑いが足りていないのですよ。あまり笑ったり、笑わせたりの記憶がないのです。試しに記録をつけたことがあって、私とか木島は昨年は春から三カ月以上笑わなかった。気が付くと前期が終わっていて、さすがにまずいと思って、無理やり笑いました」と、恐いことを平気で吹聴する。
「久しぶりに笑ったら唇の端が裂けました」
「私は、笑ったら顎関節症に」と、木島副代表がすかさず言葉を継ぐ。
 どこまでが本当なのか。他のメンバーからは何の反応もない。
「そうじゃなくても普段から一ヵ月くらいは笑わないなんてことがザラにありまして、笑わないでいる間に、痔を患いました」と、西川代表は更に真面目な顔で言う。ここも、笑っていい所か判断が出来かねる。
「さすがにこれは、と思いまして。笑いは百薬の長と言うじゃないですか。だから我々だって笑いは必要としているのです」
 それは確かにその通りではあるけれど、なんだか極端な身の上話だ。そこまでの症状になる前に笑ってください、としか言いようがなかった。
「こんな私でも極々まれに、意図せず笑いが起きる時がありまして。それがどうして? と思うことがあったりしました。どうしたら笑いを得られるかがわからなかった。何も考えずとも、いとも簡単に笑いを起こしているように見える方々もいるというのに。それを才能と言うのか、素質というのか。その仕組みを解明したい。そんなことを考えている我々のような者のために、この会はあるのです――さて、会の活動内容でしたね」
 僕がうなずくと、そこから話は徐々に本題に向かい始めた。
「笑いを起こせないのは、才能ではなくて、単に笑いの仕組みを知らないからなのでは、という前提から始まっています。歌だって、声が出る仕組みがあって、ちゃんと習えば上手になるでしょう? 笑いだって、メカニズムを解明できれば、それに則って意図的に笑いを作り出すことが可能、と考えているのです。元々が全く面白くない我々にも人を楽しませることができるのか? それを知りたい」
 西川代表の声に、ぐっと力が入った。
「才能がない。でも、才能に関係なく笑いを生み出すことができる仕組みを確立できたら――それが、この会の活動の趣旨なのです」と、説明を締めくくる。そして最後に、こう言った。
「ただ、笑いとは、自己完結じゃなくて、必ず相手が必要な物。本来、自分でコントロールできない他者に作用して起こさせるもの。素晴らしいとか、感動したとかと同じくらい、笑ってもらうのは難しいのですよ。そこが苦労するところですが」