そんな一寸(いっすん)光明(こうみょう)を僕に授けてくれたのは、臨月天光(りんげつてんこう)という名の医師だった。
 僧侶のような名前だが、まさに〝名は体を表す〟が如く、先生の微笑みは光り輝いていた。御利益(ごりやく)というものが目に見えるなら、先生の微笑みがそれだろう。


 そのお陰だろうか? 週に一日。九十分という短い診療にもかかわらず、徐々に僕の心は癒やされ、少しずつまともな睡眠が取れるようになっていった。
 それに伴って、仕事にも集中できるようになり、ミスが減り、会社の風も良い方に変わってきたように感じる。
 眠れるって最高! そんな風に叫びたいほどだった。


 だからだろうか? あの日、「先生って、名前もですが女神様のようですね」と、ガラにもなく歯の浮くような科白を言ってしまったのは……。
 おそらく浮かれていたのだと思う。


 すると先生は、「獏さん、嬉しいお言葉だけど、臨月天光という名前は悪夢をもたらす鬼神(きしん)の名なんですよ」と言って、(こら)えきれないというようにコロコロ笑い出した。
 その顔が驚くほどかわいくて……きっと、これが先生の素顔だと思った瞬間、僕は彼女に恋をした。