最初に出会ったのは、薄暗い小さな箱の中だった。
 彼女はその中で、息を潜めながら明るくなるのをじっと待っていた。
 その姿があまりにも哀しそうだったから、僕は彼女を箱ごと――食べた。


 次に出会ったのは、浴槽の中だった。
 ユラユラと揺れる水の中で、彼女はブクブクと白い泡を吐き出していた。
 その姿があまりにも苦しそうだったから、僕は彼女を浴槽ごと――食べた。


 その次に出会ったのは、凍えるようなベランダだった。
 みぞれ交じりの雨が叩き付ける中で、彼女は裸同然の姿でブルブルと震えていた。
 その姿があまりにも寒そうだったから、僕は彼女をベランダごと――食べた。


 それからも彼女の毎日は心憂(こころう)く。彼女に出会うたびに僕は彼女を――食べ続けた。
 でも、最期に出会ったあの日、彼女は木漏れ日の中で穏やかに眠っていた。
 それがあまりにも気持ちよさそうだったから、僕は彼女を――食べなかった。
 それ以来、僕は彼女に会っていない。