「ですが、悪夢に魅入られた貴女をそのまま生まれ変わらせるのは良くない、と私たちは判断しました」
 だったら、やはり地獄行きということだろうか? そう思いながら神妙に次の言葉を待っていると、思いもかけない提案をされた。


「そこで四十九日だけ時間を戻して、貴女をその間だけ臨月天光にすることにしました」
 その名を聞き、私は驚き、そして、喜んだ。
 それが悪夢を見せる鬼神の名だと知っていたからだ。ひとときでも悪夢とかかわりが持てたなら、彼と出会えると思ったのだ。


「喜ぶのはまだ早いですよ。その間に、意図する目的のものが現われなかったら、貴女は今までの記憶を持ったまま、生まれ変わらなくてはなりません。それでもいいのですね?」
 前世の記憶を残し現世に戻る。それは現世でとても辛い時間を過ごすことになるということだった。
 だが、ここでも私の気持ちは変わらなかった。それでもいいとその提案を受けた。彼の記憶が残るなら、それだけで幸せだったからだ。


 しかし、時間を戻してもらったが、結局、彼とは会えなかった。


「知っていますか? 現世の者たちが、『臨月天光と三度呼ぶと、悪夢が吉夢に変わる』と言っていることを」
 十王たちから、その名が〝悪夢除けのまじない〟として使われていると教えられ、(はか)られたと思った。


「これが貴女へのペナルティです」
 彼らはずいぶん愉快そうだった。その上――。
「人道で貴女は〝臨月天光〟と名付けられるでしょう」
 まじない、というくだりで、それが、『悪夢と無縁に過ごせ』ということらしいことを悟る。


「そして、悪夢に悩まされている人々を救う職に就きます。精一杯精進して下さい」
 無縁に過ごせと言いながら、悪夢とかかわるような仕事に就け?
 矛盾していると思ったが、クツクツと嗤う十王たちは、私に、彼を追い求めながらも『彼を忘れろ』と言いたかったようだ。それは私にとって何よりも厳しい罰だった。




 ――それなのに……彼が私の前に現われた。
 姿形(うがたかたち)は変わっても、それが『バク』と呼んでいた彼だと、私にはすぐに分かった。