それから、二、三日が経ったころだ。

新聞の地方欄に、遺体発見の記事が載り、全国ニュースの後のローカルニュースで、殺された母親の、氏名と顔写真が公開された。

ついに怖れていた出来事が、来るべくしてやって来た。

小学生の子どもたちが、このニュースが実際にテレビで流れているのを、どれくらい見たのかは分からない。

この母親の子どもは、以前まで不登校気味であったのに、俺と暮らすようになってからは、きちんと登校し、教室の他の子どもたちとも、ようやく馴染み始めたタイミングだ。

どうしてこうも世の中というのは、真面目に生きようとする人間に対して、かくも厳しく接するのであろうか。

誰かがひそひそと、噂話を口にする。

ひとつ肩を動かすたびに、周囲の視線が鋭敏に反応する。

そんな環境下で、子どもの心がまともに育つわけがない。

「先生、ごめんなさい。学校に行きたくない」

「うん、分かったよ。じゃあおうちで、ちゃんとお留守番できるかな?」

子どもは素直にうなずいた。

仕方がない。

今の俺には、この子にしっかりと寄り添い、守ってやることだけしか出来ない。

俺には、そんな世間に立ち向かう術を、持ち合わせていない。

退屈しないように、ゲーム機と最新ソフトを買ってやる。

彼の望んだ漫画や書籍も、数十冊購入した。

遊んでばかりではダメだと約束をさせ、学校で配る予定の宿題プリントを、彼にも他の子どもたちと同じように印刷して渡しておく。

情けない。

と、思う。

俺に出来ることといえば、こんなことぐらいでしかない。

それが現実だ。

俺は彼を家に残して、いつものように学校へ出勤していく。

色々と買い与えてやったことも功を奏したのか、子どもはすっかり両親にも懐き、一緒にゲームをしようと、ゲームなんて生まれてこのかた、一度もやったこともない二人を誘っては、困らせていた。

「おいおい、あんまり無茶をするなよ」

「はーい」

確かに俺が守ってやるとは約束したが、この状況に甘んじて、楽しんでいるようにも見える子どもに、ため息がでる。

いや、違う。

そうではない。

表面上はそう見えるだけで、実際には彼の心が、今とても苦しんでいることに、間違いはないんだ。

そのうわべをとりつくろう健気さがかえって、俺の気を引き締める。

しっかりしなければ。

「登校はしなくていい。ちゃんと先生が守ってあげるからね」

子どもはゲーム機を手にしたままこちらを振り返り、一度うなずく。

俺は玄関の扉を閉め、鍵をかけた。

爽やかな朝の光と風が、さっと通り抜ける。

植えたばかりの若木が、さらさらと音を立てていた。

その声は、俺にもっとちゃんとやれ、しっかりしろと圧力をかけてくる。

握りしめた拳を、さらに強く握りしめた。

俺は外界へと足を踏み出す。

その日の夕方のニュースは、彼の父親が、容疑者として逮捕されたことを伝えていた。