質屋で質流れを防ぐには、定期的に質料を支払う必要がある。一見するとそれは無駄な経費に思えるけれど、勝さんにとっては自分が頑張るための景気付けになっているのだろう。

「トイウコデ、コレカラモヨロシクナ」
「うん、よろしく」

 私は笑顔でフィリップに挨拶を返した。またフィリップとわいわいできるなんて嬉しい!
 でも、それはまだ勝さんが四苦八苦しているってことで、それはそれで複雑で──。

「オレ、マサルノトコロニカエッタラ、リカガベントウヲカイニクルトイイ」

 フィリップはそんな私の胸の内を感じ取ったようで、そう言ってくちばしを上げると、羽を広げて見せた。

「そうだね。帰らなくても買いに行くよ。ところで──」

 静かな和室をぐるりと見渡す。
 昔ながらの和室には床の間があり、小さな鏡餅が飾られている。和室の端にはお客さんからだろうか。届いたお歳暮の箱がまだたくさん積み重なっていた。

 ちょっとした違いはあるけれど、いつもと同じ光景だ。つくも質店はシーンと静まり返っている。

「店長はこんな新年早々から出張査定ですか?」
「いや。初詣に行っているよ。お袋と」
「……お袋?」

 私は真斗さんから初めて聞くその単語に目を瞬かせる。

「うん、そうだけど? 普段は仕事が忙しくて家を空けることが多いけど、年末年始はさすがにいるよ」
「あ、そうなんですか」

 真斗さんはなぜ私が不思議そうにしているかわからないようで、怪訝な表情で私を見返す。
 いつ来ても真斗さんと飯田店長の二人しかおらず全くお母さんの気配が見えないから、私は勝手にお母さんはいないものだと思い込んでいた。なんと、ただのバリバリのキャリアウーマンだったようだ。慌ててへらりと笑ってごまかした。

「後で紹介するよ」
「はい。ありがとうございます」 
「遠野さんは初詣行った?」
「私、まだ行っていないんです」
「俺も。じゃあ、親父達が戻ってきたら一緒に行く? って言っても、下の天神様だけど」

 下の天神様とは、坂を下った場所にある湯島天満宮──通称『湯島天神』のことだろう。

「はい、行きたいです!」
「ん」

 私は表情を綻ばせると、真斗さんは柔らかく微笑む。

「オレモイク」

 フィリップがすかさずそう言い、膝に片足を乗せたシロが「ニャー」と鳴いた。

 なんとなく、今年は楽しい一年になりそうな気がした。