借り入れていたお金の支払いを勝さんが済ませた頃には、フィリップはいつの間にか、勝さんの肩にちょこんと乗ってすまし顔をしていた。

「ジャーナ。マナト、リカ」

 いつもならずっとお喋りしているくせに、別れはやけにあっさりだ。私は肩に緑のインコを乗せた勝さんの後ろ姿を、その姿が見えなくなるまでお見送りした。

「お前、なんで泣いてるの……」

 お見送り後にうっすらと目に涙を浮かべてた私を見て、真斗さんはギョッとした顔をした。私はハンカチを鞄から取り出して、ぐいっと顔を拭う。

 これでフィリップとお別れかと思うと、やっぱりどうしても寂しい。そう訴えると、真斗さんははあっと息を吐いた。

「仕方がねーな。今日は俺が話し相手をしてやろう」
「なんですか。その上から目線」
「多分その涙、無駄になるな」
「ええ?」

 何を言っているのか意味がわからない。

 それでも一応気を使ってくれていたのか、次につくも質店に行ったときには本郷三丁目の交差点前にある和菓子屋『三原堂』の看板メニューである『大學最中』が置かれていた。どうしたのかと聞くと「遠野さんが好きそうだから」と。

「ありがとうございます」
「別に。研究室に行くついでだから」

 真斗さんはちらりとこちらを見たが、すぐに目を逸らす。

 はて。東京大学の工学系の校舎は広い本郷キャンパスの北側に集中している。つくも質店から行くには、鉄門から敷地内に入って北上するので、途中で本郷三丁目交差点なんて通らないはずだけど?

 無意識に、笑みが漏れる。
 本当に、ぶっきらぼうに見えて優しいなぁ。 

 真斗さんが淹れてくれた熱々の麦茶と一緒に大學最中を頂くと、さくりとした軽い食感と共に口の中に優しい甘さが広がった。

 ◇ ◇ ◇

 お正月が明けたこの日、私はつくも質店へ向かうため、無縁坂を一人下っていた。なぜ下っているかと言うと、今日は新年最初のつくも質店のバイトの日なので、お土産を買うために寄り道して本郷三丁目駅から来たからだ。

 買ってきたのは護国寺駅近くにある『群林堂』の豆大福!

 護国寺駅とは東京都文京区音羽にあり、つくも質店がある位置から見ると北西に位置している。地下鉄丸ノ内線で本郷三丁目駅から二駅の茗荷谷駅からも歩けるので、わざわざ買いに行ってしまった。
 ここの豆大福はとろーりあんこが本当に絶品で、真斗さんは絶対に好きだと確信している。