私はさっと店内を見渡す。陳列棚に並べられているのは私も知るような高級ブランド品の鞄の数々、銀色の棘みたいなものが生えた個性的なパンプス、カラフルなスカーフに時計……。
(シロ、いないな……)
店内をぐるりと見まわして、そんなことを思う。私が手放したくせに、もうどこかへ行ってしまったのだろうかと心配になる。
「どうしましたか?」
「あの……、預けていた品物の取り置き期限を延ばしてもらいたいんです」
「ああ。利息を払いに来たのかな?」
男性は笑顔で頷くと、「質札を見せて下さい」と言った。
「え? 質札?」
「質入れの際の控え書だよ」
質入れに控え書なんて貰ってない。戸惑う私を見て、中年の男性は怪訝な表情をした。
「預けた際に、こんな紙を受け取っただろう?」
中年の男性はカウンターの引き出しから複写式の紙の束を取り出す。サンプルを見せてもらうと、氏名や住所、質入れ日や借入金などを事細かに記載する欄があった。
「書いていないです」
「書いていない?」
困惑気味に中年の男性は私を見る。私は信じられない思いで見返した。
騙されたのかも……。
脳裏を過ったのは、そんな考え。
そもそも、お金を貸してくれるのに何も控えがないなんておかしいと思ったのだ。もしかしたら、あの万年筆には物凄い価値──一〇万円位はしたのかもしれない。それを五万円で騙し取れるなら、儲けものだ。
サーっと血の気が引くのを感じた。
あのイケメン、澄ました顔をしてとんだ悪党だ。質入れと見せかけて僅かばかりのお金を渡し、商品までちゃっかりと手に入れるなんて。親切そうな態度を見せておきながら、心の中でバカな奴だと笑っていたのかな。鼻の奥がツーンと痛むのを感じた。
「えっと……、どういう状況で何を質入れしたのかな?」
急に涙ぐんだ私を見て、目の前の男性は困った様子だ。
「二ヶ月位前にここに来て、若い男の人が──」
そこまで話し、私はハッとした。名前! 名前を書いたメモが財布に入れっぱなしのはず。慌てて鞄を漁り、財布を探す。
「あった。これだ」
ポイントカードの間に紛れた二つ折りにしたメモは、端がボロボロになっていた。丁寧に開くと、中年の男性もカウンター越しにそのメモを覗き込む。
「えっと、飯田──」
そのときだ。背後からガラガラッと引き扉を開ける音がした。急な物音にびっくりして振り返り、目に入った人物に私は目をみはる。
「あー! あのときの悪党!」
「…………。はぁ?」
そこには、前回私の接客をしたイケメン、もとい、質入れ詐欺男がいたのだ。
よくも性懲りもなく目の前に現れたな、この悪党め!
そんな気持ちを込めて目の前のイケメンを睨み付ける。
「この人です、この人! この人が私の万年筆を横領しました!」
ビシッと人差し指を突きつけて、カウンターにいた中年の男性に訴える。男性は困惑顔で私とイケメンを見比べた。
「あー……。真斗、このお嬢さんと知り合いかいか?」
落ち着いた、けれど、戸惑ったような口調で中年の男性がイケメンに尋ねる。私は男性とイケメンを交互に見比べた。
「え? 知り合い?」
「息子だね」
「…………」
店内に、なんとも言えない気まずい雰囲気が広がったのだった。
(シロ、いないな……)
店内をぐるりと見まわして、そんなことを思う。私が手放したくせに、もうどこかへ行ってしまったのだろうかと心配になる。
「どうしましたか?」
「あの……、預けていた品物の取り置き期限を延ばしてもらいたいんです」
「ああ。利息を払いに来たのかな?」
男性は笑顔で頷くと、「質札を見せて下さい」と言った。
「え? 質札?」
「質入れの際の控え書だよ」
質入れに控え書なんて貰ってない。戸惑う私を見て、中年の男性は怪訝な表情をした。
「預けた際に、こんな紙を受け取っただろう?」
中年の男性はカウンターの引き出しから複写式の紙の束を取り出す。サンプルを見せてもらうと、氏名や住所、質入れ日や借入金などを事細かに記載する欄があった。
「書いていないです」
「書いていない?」
困惑気味に中年の男性は私を見る。私は信じられない思いで見返した。
騙されたのかも……。
脳裏を過ったのは、そんな考え。
そもそも、お金を貸してくれるのに何も控えがないなんておかしいと思ったのだ。もしかしたら、あの万年筆には物凄い価値──一〇万円位はしたのかもしれない。それを五万円で騙し取れるなら、儲けものだ。
サーっと血の気が引くのを感じた。
あのイケメン、澄ました顔をしてとんだ悪党だ。質入れと見せかけて僅かばかりのお金を渡し、商品までちゃっかりと手に入れるなんて。親切そうな態度を見せておきながら、心の中でバカな奴だと笑っていたのかな。鼻の奥がツーンと痛むのを感じた。
「えっと……、どういう状況で何を質入れしたのかな?」
急に涙ぐんだ私を見て、目の前の男性は困った様子だ。
「二ヶ月位前にここに来て、若い男の人が──」
そこまで話し、私はハッとした。名前! 名前を書いたメモが財布に入れっぱなしのはず。慌てて鞄を漁り、財布を探す。
「あった。これだ」
ポイントカードの間に紛れた二つ折りにしたメモは、端がボロボロになっていた。丁寧に開くと、中年の男性もカウンター越しにそのメモを覗き込む。
「えっと、飯田──」
そのときだ。背後からガラガラッと引き扉を開ける音がした。急な物音にびっくりして振り返り、目に入った人物に私は目をみはる。
「あー! あのときの悪党!」
「…………。はぁ?」
そこには、前回私の接客をしたイケメン、もとい、質入れ詐欺男がいたのだ。
よくも性懲りもなく目の前に現れたな、この悪党め!
そんな気持ちを込めて目の前のイケメンを睨み付ける。
「この人です、この人! この人が私の万年筆を横領しました!」
ビシッと人差し指を突きつけて、カウンターにいた中年の男性に訴える。男性は困惑顔で私とイケメンを見比べた。
「あー……。真斗、このお嬢さんと知り合いかいか?」
落ち着いた、けれど、戸惑ったような口調で中年の男性がイケメンに尋ねる。私は男性とイケメンを交互に見比べた。
「え? 知り合い?」
「息子だね」
「…………」
店内に、なんとも言えない気まずい雰囲気が広がったのだった。