「あの頃は日本全体の経済がぐんぐん伸びていて、ちょっとくらい高い弁当でも飛ぶように売れました。むしろ、高い方が売れるくらいだった。おかげでうちは景気がよくて、あの頃は両親は高級車に乗って、いい物を着ていたな。家にもお手伝いさんがいて、僕は私立の小学校に行ってね」
「へえ。すごい」

 話に聞き入りながら、私は相槌を打つ。
 高級車にお手伝いさん、私立小学校。どれも私には縁のないものだ。きっと、さぞかし景気がよかったのだろう。

「その頃、父がこれを買ってきました。僕はまだ子供だったから正確なことはわからないけれど、当時のサラリーマンの平均年収よりもはるかに高かったっていうのは、両親の会話から知っています。よく父は『これは(まさる)が大人になったら譲ってやる』って言ってね。高級時計は何個も持っていたけれど、これが一番のお気に入りだった。──たぶん、自分が人生で成功した証みたいに思っていたんだと思います」

 勝さんは手元の時計を眺めると、懐かしそうに目を細めた。

「それが、景気の停滞と共にうちの業績も傾いてきて──」