見たことはないけれど、時計というのは工場の機械が勝手に組み立てて出来上がるイメージがある。それなのに、全部手作業なんてすごい。しかも、永久修理保証だなんて。
「すごいだろ?」
「すごいです!」
「オレ、マダコワレナイカラシンパイシナクテモダイジョウブダ」
会話する私と真斗さんの間に、フィリップがトントンとやってくる。
「そうだな。悪かった」
真斗さんは苦笑すると、軽口でフィリップに謝罪した。
◇ ◇ ◇
フィリップの持ち主である粕谷さんは、それから程なくしてつくも質店に現れた。時折つくも質店にお弁当を届けてくれるときのお店の制服ではなく、濃紺のパンツに足の付け根くらいまでの丈の黒いコートを羽織った、小奇麗な普段着だ。
粕谷さんに気付いた真斗さんはすぐにあらかじめ出していた腕時計をカウンターに持ってきた。
「お待ちしておりました。お間違いがないか、ご確認をお願いします」
真斗さんに差し出された腕時計を手に取った粕谷さんは、その時計をじっと見つめると裏を見る。そして、ほんの少しだけ口角を上げた。
「ええ、間違いありません」
「お預かりしている間もこまめに動かしていましたので、問題なく動作するかと思います」
「ええ、そうですね。いつもありがとうございます」
腕時計とスマホの時間が一致していることを確認すると、粕谷さんは満足げに頷いた。
「お正月に父が戻って来るんですよ。そのときにつけていきたいと思いまして」
粕谷さんがそう言うと、フィリップが首と羽を揺らした。
「オレヲサイショニカッタ、ヒロシガクル」
──え、そうなの?
そう聞き返しそうになって、慌てて口を噤む。ここでフィリップに話しかけたら、完全に私がおかしな人だ。
「うち、あんな小さな店舗ですけど、昔はすごく繁盛していたんですよ」
「そうなんですね」
私は笑顔で世間話を始めた粕谷さんを見返す。弁当屋『かすや』のお弁当はとても美味しいので、とても繁盛していたというのは想像がつく。
「ええ。あの辺りは少し歩けば至る所に会社の事務所なんかがあるから。仕事途中のお昼ご飯に重宝されていて、結構売り上げていたんですよ。私がまだ子供の頃です」
粕谷さんは昔話をしたい気分だったのか、その時計を眺めながら、その後もぽつりぽつりとお店のことを話し始めた。
「すごいだろ?」
「すごいです!」
「オレ、マダコワレナイカラシンパイシナクテモダイジョウブダ」
会話する私と真斗さんの間に、フィリップがトントンとやってくる。
「そうだな。悪かった」
真斗さんは苦笑すると、軽口でフィリップに謝罪した。
◇ ◇ ◇
フィリップの持ち主である粕谷さんは、それから程なくしてつくも質店に現れた。時折つくも質店にお弁当を届けてくれるときのお店の制服ではなく、濃紺のパンツに足の付け根くらいまでの丈の黒いコートを羽織った、小奇麗な普段着だ。
粕谷さんに気付いた真斗さんはすぐにあらかじめ出していた腕時計をカウンターに持ってきた。
「お待ちしておりました。お間違いがないか、ご確認をお願いします」
真斗さんに差し出された腕時計を手に取った粕谷さんは、その時計をじっと見つめると裏を見る。そして、ほんの少しだけ口角を上げた。
「ええ、間違いありません」
「お預かりしている間もこまめに動かしていましたので、問題なく動作するかと思います」
「ええ、そうですね。いつもありがとうございます」
腕時計とスマホの時間が一致していることを確認すると、粕谷さんは満足げに頷いた。
「お正月に父が戻って来るんですよ。そのときにつけていきたいと思いまして」
粕谷さんがそう言うと、フィリップが首と羽を揺らした。
「オレヲサイショニカッタ、ヒロシガクル」
──え、そうなの?
そう聞き返しそうになって、慌てて口を噤む。ここでフィリップに話しかけたら、完全に私がおかしな人だ。
「うち、あんな小さな店舗ですけど、昔はすごく繁盛していたんですよ」
「そうなんですね」
私は笑顔で世間話を始めた粕谷さんを見返す。弁当屋『かすや』のお弁当はとても美味しいので、とても繁盛していたというのは想像がつく。
「ええ。あの辺りは少し歩けば至る所に会社の事務所なんかがあるから。仕事途中のお昼ご飯に重宝されていて、結構売り上げていたんですよ。私がまだ子供の頃です」
粕谷さんは昔話をしたい気分だったのか、その時計を眺めながら、その後もぽつりぽつりとお店のことを話し始めた。