真斗さんが声をかけると、すっかりと顔なじみなのか、カウンターに立っていた中年の女性は表情を和らげた。

「あら、こんにちは。今、主人を呼びますね」
「いえ、お忙しいと思うので大丈夫です」
「いいのよ。せっかく来てくれたんだから」

 そう言うと、女性一旦奥へと消える。暫くすると、どこかで見覚えのある男性が現れた。
 短く切った髪、少し垂れ気味の二重の瞳、面長で優しそうな男性だ。カウンターの女性とは夫婦だろうか。顔は似ていないのに、どことなく雰囲気が似ている。
 
 真斗さんの肩に乗っていたフィリップがばさりと羽ばたき、その男性の肩に乗った。私はギョッとしたけれど、当の本人にはフィリップが見えていないようで、何事もないように表情を綻ばせた。

「飯田さん、いつもありがとうございます」
「いえ、こちらこそいつもありがとうございます。今日は粕谷さんご本人がいらしたんですね」
「はい。さっき、営業先から戻ってきたんですよ。今度、埼玉にあるデパートの特設に入れてもらえることに──」

 そんな会話をしながら、真斗さんと男性は親しげにお喋りしている。『粕谷さん』というのがこの男性の名字なのだろう。