「あとは直射日光に当たる場所に長期間置きっぱなしにしたりすることも避けて下さい。糸替えは──」

 真斗さんは手を動かしながらも真珠を長持ちさせるための注意事項を伝える。奥様はそれを真剣な表情で聞いていた。

「お買い上げありがとうございました」

 私と真斗さんは、帰り際にお二人をお見送りする。
 ネックレスの入った紙袋を片手に持った旦那様と、旦那様の片手に手を添える奥様はこちらを振り返り、「ありがとう」と言った。
 となりにいるミキちゃんがこちらを振り返り、私と目が合う。

「さようなら、お姉ちゃん」

 ──うん、またね。

 そう言いかけて、私は口を噤む。
 これからまた新しい持ち主さんの元で大切にされるであろうミキちゃんと私が会うことは、もう二度とないだろう。

「バイバイ。大事にされるんだよ」

 小さく呟いた言葉が聞こえたのか、ミキちゃんは満面の笑みを浮かべて片手を大きく振った。

「ジャーナ」

 いつの間にか飛んできて真斗さんの肩に乗っていたフィリップが短く別れの言葉を言った。足元ではシロが「ニャー」と鳴く。

 ひらりと玄関先の紅葉の葉が落ち、また一つ、地面に赤い花を咲かせた。

「大切にしてもらえるといいですね」

 人影の見えなくなった門を見つめる私のとなりで、真斗さんも門の方向を見つめる。

「あの付喪神様さ、すぐに塚越さんの奥さんのこと気に入ったみたいだから、大丈夫だよ。塚越さんがここに電話してきたときも、一生使える物をって話だったし。多分、付喪神様の効果もあって幸せになるんじゃないかな」
「……そっか。よかった」

 あの日に見せてもらった、ミキちゃんの中に残る記憶の断片が蘇る。
 これから先、新しい持ち主さんとどんな素敵な思い出を作るのだろう。
 そんな想像をして、私は表情を綻ばせた。

「さてと……。寒いから入るぞ」
「はいっ」

 私が入るのを待つように、真斗さんが玄関前で引き戸を引いたまま待っている。私は店の中が冷えては大変だと慌てて中に入った。

「ありがとうございます」

 玄関をくぐると、また独特の雰囲気が漂う。
 質素なカウンターと、綺麗に飾られた、たくさんの高級品の数々。ガラガラっと音がして、背後で引き戸が閉まる気配がした。

 ここは不思議な質屋だ。
 売っているものは確かにただの中古品なのだけど、それと一緒に幸せも運んでいる気がした。