待ち人は六時になる五分前にやって来た。ガラガラっと引き戸を開ける音がしてカウンターへ出ると、そこにいたのは若い夫婦だった。年齢的には、三〇歳前後だろうか。

塚越(つかこし)です。電話でお伝えしていたネックレスを見に来たんですけど……」

 男性の方が私に名前を告げる。恐らく真珠のネックレスのことだとは思うけれど、間違っていては大変だと奥を振り返ると、ちょうど真斗さんが先ほど机に置かれていたパールネックレスのケースを持って現れた。

「塚越様、お待ちしておりました。こちらになります」

 ふたを開けて、真珠のネックレスをケースごと塚越様に差し出す。二人はそれをじっと覗き込んだ。

「触っても?」
「もちろんです。お試しになって下さい」

 真斗さんが卓上の鏡をカウンターの上に置くと、恐る恐るネックレスに手を伸ばした塚越さんの奥様は、それを首元に当てる。その後旦那様がそれを受け取り、奥様の首に付けてあげていた。

「素敵ね」

 奥様の表情が、ふわりと綻ぶ。
 Vネックのニットを着られていたので、すっきりとした首元に白いネックレスがよく映えた。

「とてもよくお似合いですよ。こちらは中古品ではありますが、傷や糸の緩みなどもなくとてもいい状態です」と真斗さんが説明する。

 ふわりと空気が揺れたような気がして、私は視線を移動させる。
 塚越さんの奥様のすぐ横には、先日会ったミキちゃんがいた。真斗さんもチラリと視線を移動させたので、ミキちゃんに気が付いたようだ。

 ミキちゃんは暫くじっと見上げるように塚越さんの奥様を見つめていた。
 そして、恐る恐るといった様子で手を伸ばし、その腕に触れたとき──。

「これがいいな。気に入ったわ」

 塚越さんの奥様は付けていたネックレスを外すと、それを手に持って眺め、口元に笑みを浮かべる。

「そうか。見に来てよかった。じゃあ、これをお願いします」

 塚越さんは奥様の真珠を外してあげると、それを真斗さんに差し出した。

「かしこまりました。ありがとうございます」

 真斗さんは手袋をつけた手でネックレスを受け取ると、専用の柔らかい布で拭いてからケースへと収めた。

「真珠は傷みやすいので、お手入れに気を付けて下さいね。汗に弱いので、使ったら必ず乾いた布で丁寧に拭いてから保管してください。汗だけでなく髪に付いた整髪料が触れるのもよくないです」
「ええ、わかりました」と奥様が答える。