そんな想像をしていると、真斗さんと飯田店長は通りからさらに一本、細い道に入った。

 両手を広げたくらいの幅しかないその道を見て、私は戸惑った。本当にこんなところにお店があるのだろうか。

「ここだよ」

 立ち止まった真斗さんがこちらを振り返ったとき、私はポカンとしてしまった。

 だって、そこにあったのは喫茶店というか、ペットショップだったのだ!

 青色ののぼりには大きく『金魚』と白い字で書かれているので、正確に言うと金魚屋さんだろうか。通りから見える水槽では、近所の小学生と思しき子供達が金魚釣りを楽しんでいた。

 呆気にとられる私をよそに、真斗さんはそのすぐ脇にある扉を開ける。すると、すぐに上と下に向かう階段があるのが見え、玄関前にはたくさんの金魚グッズが置かれていた。

 もしかして、これは──。

「喫茶店なんですか?」
「そうだよ。喫茶店だってさっき言っただろ?」

 驚く私を見て、真斗さんが笑う。
 
「前に土屋さんの出張査定に行ったときに玄関の金魚をじっと見ていたから、喜ぶかなって思ってさ」
「はい。面白いです! こういうの、好き」

 私はきょろきょろと辺りを見渡す。店内には金魚にまつわる小物が至る所に置かれていた。メニューは普通の喫茶店なのに、面白い!

「金魚って、お姫様みたいじゃないですか?」
「お姫様?」

 案内されたテーブルの正面に座る真斗さんと飯田店長には私の意図が伝わらなかったようで、二人は不思議そうな顔をしてこちらを見返してきた。

「ひらひらの尾が、まるで赤いドレスを着ているみたいに見えませんか? あの姿が、ダンスを踊るお姫様みたいだなって」

 昔、家でリュウキンを飼っていたとき、よくその姿を眺めていた。
 ひらひらと水中で揺れる赤い尾が、まるでお姫様のドレスが揺れているようだなと思ったのを覚えている。おとぎ話で王子様と踊るお姫様のドレスの裾も、あんな風に揺れるのだろうかと想像した。

 それを聞いた二人は顔を見合わせると、「面白いアイデアだ」と楽しそうに笑った。
 みんなそんな風に見えているのかと思っていた私は、逆に驚いてしまう。

「さすが作家志望。着眼点が面白い」
「そうですか?」
「普通、そんなこと思わないだろ。それで何か書けばいいのに」

 真斗さんは運ばれてきたこの店オススメの薬膳カレーをスプーンで掬う。私も一口、口に運んだ。色が普通のカレーに比べて黒いけど、味はカレーだ。美味しい。