私は再び、路子さんへと視線を移す。今日もその首元には、白く輝く真珠のネックレスが飾られていた。


 その後もいくつかのシーンを転々とする。

 それは子供の卒業式であったり、観劇会であったり、音楽鑑賞であったり、内容は様々だ。ただ、私が見る路子さんの首元には、いつも真珠のネックレスがひっそりと輝いていた。

 そして最後に周りが変わったとき、ふと鼻孔をくすぐったのは線香の香りだった。
 目に入ったのは、真っ白な菊の花。そして、その中央では老年と言える男性がこちらを見つめて微笑んでいる。

「……お葬式?」

 一体誰の? と思って視線をずらすと、一番祭壇に近い親族席には初老の女性がいた。ただ、今までの光景を早送りで見ていた私は一目でそれが路子さんだとわかった。
 真っ黒な喪服に身を包んだ路子さんは、片手にハンカチを片手に握りしめたまま、呆然とした様子で祭壇の中央で微笑む男性を見つめていた。年齢を感じさせる首元には、やっぱり今日も真珠が輝いている。そして、その傍らには今回の依頼者である土屋さんがいた。

「もしかして……」

 私はもう一度祭壇を見つめる。この人は、路子さんの旦那さんだろうか。そして、路子さんは──。

 ──ガタン。

 不意に物音がして驚いて振り向く。バシンと景色が変わり、いつの間にか私は元居た和室にいた。

「え……?」

 私は驚いて周囲を見渡す。
 扉のところには真斗さんがいて、びっくりした様子できょろきょろする私を見つめ、目を瞬かせていた。

「えっと……、どうかしたの?」

 気が付けば、いつの間にかミキちゃんはどこにもおらず、私の目の前には開かれた箱に入れられたままの真珠が置かれていた。

「いえっ、なんでもありません」

 私は慌てて、動揺を隠すように両手を目の前で振った。

「そうは見えないけど?」

 こちらに歩み寄った真斗さんは先ほど持って出た鞄をテーブルの上に置くと、商品名と値段を告げる。私は慌ててそれを買い取り用紙に記入した。