ふと気が付くと、知らない町にいた。
周囲には人がたくさんいるのだけど、服装がなんとなく違う。これは、テレビで見たことがある高度経済成長期の──。
大通りに行き交う人々は、誰もここでは少し異色な格好をした私には気が付かない。
「お姉ちゃん、こっちだよ」
いつの間にか横にいた、ミキちゃんに手を引かれる。連れてこられたのは、真っ白の石造りのお洒落な外観の建物だった。
「これ、なんのお店?」
「私が路子のために買われたお店」
「路子?」
ミキちゃんはそう言うと、ドアをするりと通り抜ける。手を握られたままの私は『ぶつかる!』とぎゅっと目を閉じたけれど、衝撃はやってこなかった。
そっと目を開けると、そこにはショーケースとその前で商品を吟味する身なりのよい親子がいた。
中心にいてショーケースの中を見つめているのはクリーム色のワンピース姿の若い女性──年齢的には二十代前半だろうか。少しだけウェーブのかかった黒い髪を真ん中分けに纏めあげ、興奮からか、白い肌は僅かに紅潮している。
その傍らには、十代前半の紺色のワンピース姿の女の子がいた。隣にいる四十歳前後の女性は落ち着いた雰囲気の着物を着ており、男性はズボンにジャケット姿だ。
「あれが路子さん?」
「そうだよ」
私が中心にいる若い女性を指すと、ミキちゃんはにこりと笑う。
一方、路子さんは熱心にショーケースを眺め、中の商品を指さしている。
「こちらでよろしいでしょうか?」
手袋をつけた店員がショーケースからネックレスを取り出す。そして、路子さんに後ろを向かせると、それを首元に付けてあげていた。
「あ、あれ……」
私は小さな声を洩らす。そのネックレスに見覚えがあったのだ。
真っ白に輝く真珠が数珠上に連なり、首元で艶やかな輝きを放っている。程よい粒の大きさのそれは、ただの白なのに圧倒的な存在感があった。
「素敵ね」と路子さんが感嘆の声を漏らす。
「お姉ちゃん、綺麗!」
「とてもお似合いですよ」
妹さんの言葉に路子さんが口許を綻ばせると、店員さんもにっこりと微笑む。
店員さんが出した何種類か粒の大きさや長さが微妙に違うデザインのものを試していた路子さんは、最後にもう一度最初と同じものをつける。そして、「これがいいわ」と笑顔を見せた。
帰り際、店員さんは商品の入った袋を手渡すと、路子さんとご家族に「ご結婚おめでとうございます。ありがとうございました」と告げた。すると路子さんも「ありがとう」と言い、嬉し恥ずかしそうにはにかんだ。