私は暇を持て余すように、まだ査定していない箱を何気なく手に取った。残りはあと一つだけ。クリーム色のベロアのような生地の箱を開けると、中から現れたのは──。

「わあ、綺麗……」

 室内の蛍光灯の下で鈍く光るのは、粒の大きさがしっかりと揃った真円の真珠のネックレスだった。箱の白い上蓋の裏には銀色の文字で『MIKIMOTO』と書かれている。そして、ネックレスには銀色に輝く、小さな『M』のエンブレムが付いていた。『M』の上には小さな円がついている。

「綺麗でしょ?」

 うっとりとそれを眺めていた私は、突然話しかけられてびくっとした。
 ふと横を見ると、幼稚園児くらいの年頃の女の子がにこにこしながらこちらを見つめている。白いワンピースを着ていて、髪の毛は顎のあたりで綺麗にカットされている。土屋さんの娘さんだろうか?

「うん、とても素敵ね。」 
「すごく大事にしてくれていたのよ。ちゃんと、糸も定期的に交換してお手入れしてくれていたの」
「へえ」

 真珠のネックレスって、定期的に糸を交換するものなんだ。ちっとも知らなかった。

 笑顔でそう教えてくれる女の子の話を聞きながら、私はふと疑問を覚えた。
 そんなに大事にしている物を、土屋さんは売ってしまうのだろうか。

「これ……」
「新しい持ち主のところにいくんでしょ?」

 女の子は「知っているよ」と言いたげに、にこりと笑って私を見つめる。

「とっておけば、あなた……」
「名前は……。うーん、ミキでいいよ」
「ミキちゃんが使えるかもしれないのに」

 私の呟きに、目の前の女の子──ミキちゃんは驚いたように目をみはる。そして、くすくすと笑いだした。

「私? 私は無理だよ。だって、自分じゃつけられない。()()()使()()()()()()()()

 その言い方で、ピンと来た。もしかして、突然現れたこの女の子は──。

「ミキちゃんは、付喪神様?」
「正解! 私、自分とお喋りできる人と初めて会ったよ」

 ミキちゃんは嬉しそうに両手を合わせると、満面に笑みを浮かべる。そして、私と一緒にいたフィリップにも「こんにちは」と言った。

 私は正直驚いた。今まで出会った付喪神様は小鳥とかインコとか猫とか、全部小動物だったから。『人型もいるよ』と真斗さんから聞いてはいたものの、まさか、本当にこんなしっかりとした人型の付喪神様に出会えるなんて。

 それと同時に、疑問を覚えた。