真斗さんは最近完成した大型ビルの名前をいくつか挙げる。
 どれも開業のときにテレビを賑わせた、大規模再開発の物件だ。ふと、つくも質店で働き始めたばかりの頃に真斗さんが言っていた言葉が蘇る。

「前に言っていた、〝自然と融合する都市をデザインする〟ですか?」
「そう。コンクリートジャングルだけじゃない都市を作る」

 そう言うと、横を歩いていた真斗さんは視線を斜め上に投げる。
 そこには隣接する東京ドームシティの大型ホテルのビルが見えた。

 なるほど、あんな巨大ビルの横にはこんな素敵な日本庭園。これはたまたま位置関係がこうなっただけだろうけれど、そういう姿が自然にある都市をデザインしたいということなのだろう。
 最新鋭のテクノロジーと人々の憩いの場が融合した都市を。

「素敵ですね」
「だろ?」

 真斗さんは嬉しそうに笑うと空を眺める。
 優しい風が吹き、真っ赤に色づいた紅葉の葉がふわりふわりと舞った。 



 暫く庭園の散策を楽しんでいると、不意に真斗さんの肩にとまっていたフィリップが羽をバタバタさせた。

「マナト、ジカンダ」
「お、もうそんなに経ったんだ。教えてくれて、ありがとな」

 真斗さんは慌ててスマホを取り出して時間を確認する。横から画面を覗くと、確かに店長と約束した時間の三〇分前だった。

「フィリップ、よく気が付いたね」

 感心していると、フィリップは得意気に首を揺らす。

「オレ、トケイダカラナ」
「あ、前にそう言っていたね。フィリップはどんな時計なの?」
「カッコイイ、ウデドケイダ」
「ふーん」

 実は、フィリップが宿るというその『カッコイイ時計』を私はまだ見たことがない。つくも質店の質草(お客様から預かった商品のこと)は、専用の大きな耐火・防犯金庫に保管されているので、滅多なことでは見られないのだ。