入り口の案内板にはここの庭園は寛永六年(一六二九年)に造園され、その後火災などを経ては修復され今に至ると記載されていた。

 この景色だけを見ると、実際には行ったこともない江戸時代にタイムスリップしたような気持ちになる。背後に見える東京ドームの真っ白な屋根だけが、今は令和なのだと教えてくれた。

 ゆっくりと歩きながら切石と玉石を組み合わせた延べ段という中国風の石畳を歩きながら池を眺めると、見事に色づいた紅葉が秋の景色を彩っている。その紅葉が池に映り、鏡のように上下逆の世界を作り出していた。

「綺麗ですね」
「だな」

 横を歩く真斗さんは池の方向を眺めると、柔らかく目を細める。何かを懐かしむような、愛おしむような。

「真斗さん、昔っからここが好きなんですか?」
「え?」
「店長がそう言っていたから」

 真斗さんは「ああ」と少し照れたようにはにかむと、ゆっくりと歩き出す。

「家から近いからよく来たっていうのと、ここに来ればついでに遊園地に連れて行ってもらえたから。あの遊園地、戦隊ヒーローのイベントをよくやっていたから、好きだったな」
 
 そういいながら、真斗さんは遊園地方向を見る。
 なるほど。そういう理由で好きだったのか。今の真斗さんからは、戦隊ヒーローに夢中になる姿は想像がつかないけれど、きっととても楽しい思い出なのだろう。

「日本庭園ってさ、小さな空間に山とか池とか、ギュギュっと詰まっていて、凄いだろ?」

 歩いていた前方に、先ほどとは違う池が現れる。今度の池は蓮が全体を覆っており、中央にある小島に行くための石橋はすっかりと苔がむし、通行止めになっていた。

「確かにそうですね。四季折々の景色が楽しめるようになっていますものね」

 蓮の葉の合間をゆったりと泳ぐ亀の姿を眺めながら、私は頷く。亀は岩に上がると、甲羅を乾かすためかそこでじっと止まった。

「うん。癒されるっていうか。俺、こういうのを作りたいんだよね」
「こういうの? 庭をですか?」

 私は意外な話に真斗さんを見上げる。本当は庭師になりたかったのだろうか?

「最近さ、超高層ビルが多いだろ? 超高層ビルの根本部分には『公開空地』っていう、ある一定以上の空間を作るんだ。そういう公開空地を公園にすることも増えてきてさ、最近だと──」