「瑠璃光院はさすがに遠いね。ここから近い日本庭園と言えば、本駒込の六義園か小石川後楽園だね」
「後楽園って、遊園地ですよね?」
怪訝に思った私は聞き返す。
日本庭園? この辺で『後楽園』と言えば、東京ドームに隣接する遊園地を指す。入場無料で時間が空いたときなどに手軽に立ち寄れるので、私も時々亜美ちゃんと行ったりする。
「それは『後楽園遊園地』だろ。そうじゃなくって、『小石川後楽園』。水戸徳川家の江戸上屋敷の庭園だよ。遊園地のすぐ近くにある」と真斗さんの呆れたような声がした。
「水戸徳川家? 水戸徳川家って、もしかして水戸黄門の?」
「そう、それ」
「へえ! そんなのがあるんですか? 知りませんでした!」
水戸黄門と言えば『この印籠が目に入らぬか~』って言っているのを、テレビで見たことがある。
あの遊園地には何度も行ったことがあるけれど、そんな庭園があることにはちっとも気が付かなかった。
「ちょうど今度の週末に行く予定の出張査定の対象品が結構たくさんありそうで、真斗も連れて行くつもりなんだ。梨花さんも手伝ってくれないかな? 場所が神楽坂の辺りだから、その前に二人で行って来たらいい」
「なんで俺が?」
真斗さんが眉を寄せて不平を漏らす。
「真斗、小さい頃からあそこが好きだろう? それに、久しぶりだろう?」
にこにこ顔の飯田店長に諭され、真斗さんは不本意そうながらも「まあ、いいけど」と呟く。
相変わらず人がいい。これは初めて会ったときに和装姿だったのも頷ける。たぶん、最初は断ったけれど、困って頼み込む友人を見るに見かねて結局引き受けてしまったのだろうな。その姿の想像がついてしまう。
「でも私、査定作業できませんけど、出張査定に一緒に行っていいんですか?」
「仕分けとか、書類作成とか手伝ってくれればいいよ。かなりの数だから、それだけでも大助かりだ」
「わかりました。じゃあ週末、よろしくお願いします」
私は笑顔でそのお手伝いを引き受けたのだった。
◇ ◇ ◇
約束の週末、真斗さんとは飯田橋駅で待ち合わせした。
飯田橋駅はつくも質店の最寄り駅のひとつである本郷三丁目駅から地下鉄大江戸線に乗れば二駅で、ものの数分で到着する距離にある。