真斗さんは二人が消えていった方角を見つめると、目を細める。

「ミユさん、あの日ネックレスをつくも質店に持ってきただろ? で、本物だって伝えたら狼狽えていた」
「ああ、そうでしたね」
「たぶん、偽物だって思い込むことで、村上さんが会いに来てくれないことを自分の中で納得させようとしていたんじゃないかと思うんだ」

 私は真斗さんの言う意味が分からず、首を傾げて見せた。

「あー。つまりさ、ミユさん、お客さんと付き合っても長続きしないことが多いってさっき言っていただろ? だから、村上さんのことも大多数のお客と同じような人で、自分のことは最初から遊びのようなもので、一時の戯れだったと思い込もうとしてたんじゃないかと思ったんだ」
「ああ、なるほど……」

 私はようやくその意味を理解して、ミユさん達が消えていった大通りを見つめた。
 休日の昼時、通りには行き交う人々の笑顔が溢れている。

 アルハンブラのクローバーは幸福の象徴。それを贈ってくれた人が自分に興味を失ったと勘違いしたとき、ミユさんは深く傷ついて最初からその愛情が偽物だったと思い込もうとしたのだろう。
 そう思い込むことで、〝よくあることだ〟と自分に言い聞かせて、心を守ろうとしていた。

「それだけ、好きだったんでしょうね。お互いに」
「だろうな。まっ、今度は上手くいくだろ」

 真っ黄色に染まった街路樹を見上げていた真斗さんは、私と目が合うと口許を綻ばせた。

「真斗さん凄いですね。的確に謎解きしていく姿、シャーロックホームズみたいでしたよ」
「半分くらい、あの付喪神から事前に聞いていたことだけどな」
「わかっていますよ。でも、したり顔で仲を取り持っていくところ、なかなか様になってました」

 褒められた真斗さんは悪い気はしなかったようで、こちらを見下ろして目を(またた)かせると、少し照れたように笑う。

「今日、助かったよ。あの店で、遠野さんが機転を利かせてくれなかったら俺が殴られて最悪暴行騒ぎの警察沙汰になっていたかも」
「私、役に立ちました? よかった!」
「大助かり。まだ三時だから、お礼にどっかで御馳走してやろうか? 駅前の甘味でもいいし、アメ横まで歩いてもいいけど……」
「お礼……。いいんですか?」

 思わぬ申し出に、私は目を輝かせる。

 お礼をされるような大したことは何もしていないのだけど、さっき、動物園で買ったと思われるバルーンを持った子供が通り過ぎるのが目に入って、気になっていたのだ。