持っていたミユさんが偽物だと思い込んでいたところをみると、自分で買ったのではなく、きっとプレゼントだろう。一体、あれをミユさんに贈った人は、どんな状況で何を思ってプレゼントしたのだろう?

「誰かから、貰ったんですかね?」
「さあな」
「ミユハ、ジュンイチニモラッタンダヨ」

 知らないと肩を竦める真斗さんに対し、フィリップはそう言った。

「ジュンイチ?」

 私は初めて聞く名前に、訝しげにフィリップに聞き返す。

 誰ですか、その〝ジュンイチ〟って。お勤め先のお客さんだろうか?
 純一? もしくは淳一かな?

 それを聞くと、フィリップは首を左右に小刻みに振り、まるで普通のインコのような仕草をした。どうやらそこまでは把握していないらしい。

「なんでフィリップはそんなこと知っているの?」
「サッキ、キイタ」
「さっき? あの文鳥さんの姿をした付喪神様から?」
「ソウ」
「普通に『ピヨピヨ』としか聞こえなかったけど」
「それはあんたの力の問題と、付喪神の育ち具合の問題だろ」

 眉を寄せる私に、真斗さんは呆れたように息をつく。

「私の力と付喪神の育ち具合?」
「そ。前に、そういう系の力が強い人しか付喪神は見えないって言っただろう? その力」
「育ち具合っていうのは?」
「一般的に付喪神は期間が長ければ長いほど、そして持ち主の思い入れが強ければ強いほど、しっかりと形ある神様に育つ。多分、あの付喪神はまだ生まれてそんなに経ってないんだろ。俺が気付いたのもせいぜい一年くらい前だし」
「ああ、なるほど……」

 私は納得して、頷きながら天井の吊り下げ蛍光灯を眺める。
 そのとき、あることに気が付いてしまった。
 まさかとは思うけれど、もしかして──。

「真斗さんはあの小鳥さんの『ピヨピヨ』っていう鳴き声が、普通に言葉に聞こえていた? もしかして、シロの言うことも聞こえていたりする?」

 相変わらず澄ました様子でどら焼きを頬張っていた真斗さんは、最後の一口を口の中に放り込むと、こちらを一瞥してニヤリと笑うと静かに麦茶をすすった。その態度に、疑いは確信に変わる。
 
「シ、シロ、預けている間になんか言っていました?」
「んー。色々」
「色々……」

 色々?
 色々ってなに!?

 もしかして、中学生のときに好きな漫画のキャラに熱烈なラブレターをしたためて、毎週のように出版社に送りつけていたこと?