私が答えるのとほぼ同時に、奥にいた真斗さんが手を洗ってカウンターまでやって来た。

「こんにちは。今回は随分早いですね」
「うん、ちょっと査定してほしくて」
「どちらを?」
「これ」

 ミユさんは今まさに自分がつけているネックレスを首元から外すと。それを差し出した。
 お花のような形の白い飾りは、小さなボールを繋げたような金枠に囲まれている。その飾りには、金のチェーンが付いていた。 

「ヴァンクリーフ(アンド)アーペルのヴィンテージ・アルハンブラですね」
「うん、そう」

 返事しながら、ミユさんはそれを手に持った真斗さんの表情を窺うように、じっと見つめている。

(あのネックレス、大事なものじゃないのかな……)

 私はその光景を見て不思議に思った。

 以前、真斗さんはその物に対する思い入れが強ければ強いほど、また、使用している期間が長ければ長いほど、しっかりとした付喪神様が生まれると言っていた。
 まだ小さな文鳥だけど、付喪神様は付喪神様だ。ということは、ミユさんにとって、あのネックレスは大事なものに違いない。

 ふわりと頭上を何かが通り抜ける。
 その気配を感じてはっと上を見ると、視界の端に白いものが映った。視線を移動させると、以前に見た文鳥型の付喪神様がフィリップの横に降り立った。

 一方、真剣な眼差しでネックレスの査定を行っていた真斗さんは、少し難しい表情をしたまま顔を上げた。

「だいぶ使用感があって、傷も多いです。磨くにも限界があるので……。うーん、ランクCかな」
「え? 本物?」

 ミユさんは少し目を見開き、意外そうに声を上げた。

「本物ですよ。ただ、この傷と使用感だとそんなにはお出しできません。せいぜい──」

 真斗さんはネックレスを見つめながら、査定額を告げる。私には結構な高額提示に思えたけれど、元々のネックレスの値段を知らないので、なんとも言い難い。

「どうされますか?」
「そう……。えっと……、じゃあ、やめておくわ。ごめんなさい」
「承知しました。では、商品はお返しします」

 戸惑ったように言葉を詰まらせるミユさんの手元に、真斗さんは綺麗に布で拭いたそのネックレスを差し出した。ミユさんはじっとそれを見つめていたが、おもむろに手に取ると、慣れた手つきで器用に首の後ろで留め具を留めた。

 フィリップの横でピヨピヨと鳴いていた白い文鳥も、ミユさんが帰る気配を察知したようで、パタパタと羽ばたいてミユさんの持つ鞄へちょこんと乗る。

「またどうぞ」
「うん、ありがとう。今日は時間だけ取らせちゃって、ごめんね」