ミユさんは笑顔で手を振ると、横断歩道を渡ってゆく。
 その背中を見送ってから、私は当初の目的の商業施設へと向かった。

 もうすっかりと冷え込んできたこの季節、店内には冬のあったか小物で溢れていた。マフラー、ストール、手袋、帽子……。ちょうど目に入ったラビットファーのマフラーは、もふもふでびっくりするぐらい手触りがいい。

「六五〇〇円か。買えない額じゃないけど……」

 今月のファミレスバイト代が入ったこともあり、お財布の中には一万二〇〇〇円入っている。
 健也と別れたこともあり、最近急にお金を使わなくなったので懐はちょっびり温かい。だけど躊躇してしまうのは、飯田店長に借金してつくも質店で働かせてもらっているのに、こんなものを買っていいのだろうかという罪悪感があるから。

 ファミレスのバイト代が入った先日、飯田店長に「お金、返した方がいいですよね」と支払おうとしたら、それは止められてしまった。

「いいんだよ。梨花さんが来てくれて、真斗は助かっているはずだから」

 笑ってそう言ってくれたので、出しかけたお札は自分のお財布に再び舞い戻る。
 正直、そう言って貰えてホッとした自分がいた。お金云々の問題じゃなくて、真斗さんやフィリップとお喋りして過ごす(殆ど喋っているのはフィリップだけどね)は想像以上に楽しくて、居ごこちがいいのだ。

 散々迷い、ラビットファーはひとまずお預けにする。
 何か飯田親子に恩返しがしたいなと思い、今度つくも質店にアルバイトに行くときには、上野にある自分のお気に入りの和菓子、『うさぎや』のどら焼か『みはし』のあんみつをお土産に持っていこうと決めたのだった。