街に出てわいわいする休日も楽しいけれど、ゆっくりとこんなふうに過ごす休日も悪くない。なんなら、仲良しの亜美ちゃんを誘ってもいいかもしれない。
 少しだけ寄り道して公園内にあるスターバックスコーヒーでラテを購入すると、店員さんに笑顔で手渡された。紙コップ越しに、冷たい手がほんのりと温まる。一口含むと、口の中に甘い味わいが広がった。

「よし、帰るか」

 暫く休憩した私は、紙カップ片手に人の流れに乗って駅へと向かった。
 
 私がいた場所からJRの上野駅の公園口改札までは、国立西洋美術館を左手に見ながら大通りを歩いて五分もかからなかった。けれど、たまにはお店でも覗いてみようかと思った私は、公園口改札よりもお店がたくさん集中している正面玄関口改札までぐるりと回り道をすることにした。

 なんだか今日は、ひたすら歩いている気がする。
 けれど、秋の空気が気持ちよくってちっとも疲れは感じない。見上げた大通り沿いの木々の葉は夕暮れに染まる空とは対照的に、大部分がまだ青々としている。一面に色付いた景色を見るまではもう少しかかるようだ。

 ところで、上野駅の正面玄関改札口から車通りの多い大通りを挟んで向かいには、大型の商業施設がある。そこに向かおうと横断歩道を渡り終えた私は、「あれ?」という声が聞こえた気がして振り返った。
 交差点の近くの歩道の端には、しっかりとしたお化粧をした綺麗な女の人が立っていた。くるりんと巻かれた毛先のカールが決まっている。

「あれー。やっぱり! ねえ、梨花ちゃんだよね!?」
「えっと……」

 突然親しげに話しかけてきた女性に私は戸惑った。こんなきれいなお姉さん、知らないんだけど……。

 お姉さんは戸惑う私を見て何かを悟ったようで、クスッと笑った。

「私、以前つくも質店で会った四元だよ。今は『ミユ』だけど。忘れちゃったかな?」

 私は目の前のお姉さんをじっと見上げる。大きな目にしっかりと重ねられたアイシャドウ。赤い唇は以前あったときよりもずっと妖艶に見える。
 けど……。

「四元……。ミユさん?」
「そうそう。思い出した? わあ、嬉しい! もしかして、うちのお店を見に来てくれたの?」

 ミユさんは長い睫毛に縁取られた大きな瞳を輝かせると、ぎゅっと私の手を握る。デパートの化粧品売り場みたいな香水の匂いがふわっと香った。

「へ? え? ち、違います!」
「えー、違うの?」