「身分証明書は持っている?」
「はい」

 財布に入れていた大学の学生証を取り出し、カウンターの上に置く。男の人はそれを片手で引き寄せ、指に挟むと眺めた。

「大学生?」
「はい」
「成人している?」
「まだです。今十九歳……」 
「まじか……」

 男の人は眉を寄せ、小さく息を吐いた。

 男の人の様子を見て、急に不安になる。未成年は取引できないのだろうか。つい先日バイト情報サイトで目にした、【初心者・学生歓迎! 短期可。フロアレディ 時給4000円】とか【話すだけの簡単なお仕事です。 ガールズバー 時給3000円】という文字がチラチラと脳裏を過った。

「モンブランのマイスターシュテュック146、ゴールドコーティング」
「え?」
「この万年筆のことね」

 男の人はそう言いながら、私が持ってきた万年筆をじっくりと眺める。そして、ちらりと視線を私の足下に移動させ、すぐに万年筆へと視線を戻した。

「どうすっかな……」

 男の人は万年筆を眺めながら片手を顎に当てると、再び私の足下に視線を落とす。足下ではシロが「ニャー、ニャー」と忙しなく鳴いているけれど、私は何事もないかのように澄まし顔を装った。

「あんた、質屋の仕組みは知っている?」
「はい。物を売るんですよね?」
「違うよ。預けるんだよ」
「預ける?」

 私は眉を寄せ、男の人を見返した。男の人は私が持ってきた万年筆を元々入っていた箱に戻すと、カウンターのペン立てに入っていたボールペンを手に取り、紙に何かを書き始めた。

「質入れっていうのは、預けた物を担保に金を借りることだ。借りた金を返せば、預けていた品物は手元に戻ってくる」
「返ってくるんですか?」

 私は驚いて、思わず大きな声で聞き返した。てっきり、質屋イコール中古品買い取りなのだと思っていたのだ。

「そう。ただ、質入れした物をこちらが保管しているのは三カ月間。これを流質期限っていう」
「三ヶ月……」
「この期限を過ぎると質入れした商品──質草(しちぐさ)っていうんだけど、その所有権は預けた人から金を貸した質屋に移る。俗にいう質流れってやつだ。質流れした商品は売りに出される」

 男の人は手元の紙に矢印を書き、今のところに★印を、三カ月後にも印を入れた。