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 少し涼しい風が混じり始める一〇月の上旬。少しの不安を抱えたまま、私はつくも質店を訪れた。あのときは何も考えずに『働きます』と言ってしまったけれど、よくよく考えたら私は中古品の鑑定なんかできない。大丈夫だろうか。
 カタンと音を鳴らしてお店の引き戸を開けると、カウンターの奥の畳間では真斗さんが座卓に向かっていた。

「こんにちは!」

 大きな声で呼びかけると、私に気付いた真斗さんがこちらを見る。

「遠野です。今日からよろしくお願いします」
「いらっしゃい。今日からよろしく」

 軽くぺこりと頭を下げると、真斗さんはすぐに立ち上がってこちらに寄ってきた。

 鞄を奥に置くように促される。おずおずと鞄を置くと、真斗さんが先ほど向かっていた座卓の向かいに座るように勧められた。座卓にはなにやら難しそうな本がたくさん置いてある。『土木構造物共通示書』、『都市環境工学概論』、とかなんとか……。うん、よくわからない。
 真斗さんは私の向かいに座ると、その難しそうな本を無造作に端に寄せる。

「店番だけど、遠野さんは持ち込み品の査定ができないから、基本的には俺とペアで店番に入ってもらって、簡単なことだけお願いしようと思う。店内の掃除と利息を直接払いに来た人の対応と電話番、あとは、ネット注文の配送伝票書いたりかな」
「ネット注文?」
「そう。質流れになった商品をネットでも売っているから。それの配送伝票を書いたり、荷造りとか」
「ああ、なるほど。わかりました」

 持ち込まれた品の鑑定をしろと言われたらどうしようかと思っていたので、私は心底ほっとした。
 それに、真斗さんとペアで店番をするなら、わからないことも聞くことができるから安心だ。

 真斗さんは座卓に置いてあるパソコンを操作して、何かを印刷する。渡されたそれを見ると、注文一覧だった。全部で三件ほどある。

「これが昨日の夜から今までに入った注文」
「へえ」

 一晩で三件も注文が入るなんて、結構たくさん買う人がいるのだなと驚いた。

「パソコンの操作はできるよね?」
「難しいことでなければ」
「難しくないから大丈夫」

 真斗さんは手元のパソコンの画面をこちらに見えるように傾けると、デスクトップのショートカットをクリックする。モニターには商品一覧と『販売中』『注文あり』『配送済み』などのステータスが入った表が表示されていた。

「たまにここに直接買いに来る人もいるから、こまめにパソコンは確認して。ネットで注文が入っているものを店頭で売っちゃうとトラブルになるから」
「はい」
「店頭で商品が売れたら、ネットの方は『在庫なし』に変更してね」

その後も一通りの説明を受ける。最後に真斗さんが「こんなもんかな」と言ったのを聞き、さほど難しい業務はなさそうだと私は胸を撫で下ろした。

「マナト」

 早速掃除でもしようかと立ち上がりかけたとき、緑のインコが器用に鳴いた。さすがインコ、物真似が上手だなぁと思って気にも留めていなかった私は、次の瞬間我が耳を疑った。

「ダイジナコトヲ、ワスレテル」
「あ、やべ。忘れてた」
「ワスレルナ、イチバンダイジ」

 緑のインコは首を前後に振ってから、バサバサッと真斗さんの肩に飛び乗った。

 ん? んん?? 

 私は驚きのあまり、中腰のまま暫し硬直して真斗さんとインコを見つめた。