万年筆を貰ったのは、その年の年末のことだった。
 冬休みに家族でお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家に泊まりに行くと、お祖父ちゃんに「梨花。ちょっとおいで。いいものをあげよう」と言われた。

「いいもの?」

 年末のバラエティー番組を視ていた私は首を傾げてお祖父ちゃんの元へと歩み寄る。つけっぱなしのテレビからは、効果音の笑い声が「アハハハハ」と聞こえてきた。画面の中ではお笑い芸人が半裸みたいな格好をして踊っている。

「これだよ。梨花にぴったりだと思って」
「これ何?」
「あけてごらん」

 差し出されたのは黒くて長細い、小さな箱だった。それを開けると、中からは黒いペンが出てきた。自分が持っている一番太いシャーペンよりもずっと太くて、端っこには白い星みたいなマークが入っていた。淵は金色で、部屋の蛍光灯の灯りを反射して鈍く光っている。

「モントブランク?」

 小学校の授業で習ったローマ字読みで箱の蓋に書かれた文字を読むと、お祖父ちゃんは「モンブランだよ」と笑った。私の中で『モンブラン』は栗味のケーキを指す言葉だったので、よくわからずに首を傾げる。

「梨花、小説で賞を取っただろう? だから、これがぴったりだと思ったんだ。作家と言えば万年筆だ。お祖父ちゃんがまだ働いていた頃、ずっと昔に奮発して買ったやつなんだけど、今も使えるから梨花にあげよう」

 お祖父ちゃんは頭に片手を当てて嬉しそうに笑う。
 お祖父ちゃんによると、それはとても高価な万年筆らしい。傍らには、インクが入ったボトルもあった。手に握ると子供の私には少し太すぎて持ちにくかったけれど、インクにペン先を浸して紙の上を走らせると驚くほど滑らかに滑った。

「これでたくさん小説書いて、またお祖父ちゃんに見せてくれな」
「うん、わかった」

 なんの気なしに書いた作品だったけれど、こんなに喜んでくれるならまた書いてみよう。私は嬉しくなって大きく頷いた。