「けど、うちで断ったら、あんたは他のリサイクルショップか怪しいネットのオークションとかフリーマーケットアプリで売りかねないなと思って。最悪、変な店でバイトとかしそう」

 私は鋭い指摘にぐっと言葉に詰まった。あんな(ひと)のために大切な万年筆を本気でお金に変えようと思っていたあたり、冷静になった今思い返せばとても正気だったとは思えない。たしかに、店舗で売るのが無理だと知ったら未成年でも売買可能なネットアプリに頼ったかもしれない。それに、実際にキャバクラでバイトすることを考えていた。

「ちょっと待ってろ」

 真斗さんは店の奥へと消えてゆく。暫く待っていると、戻ってきて見覚えのある黒く長細い箱をカウンターの上に置いた。箱を開けて、中を見せるように私に差し出す。

「ほれ。これだろ? 大事なもんなら、二度と手放すんじゃねーぞ」
「あ、ありがとうございます……」

 店内にぶら下がったランプの光を反射して、黒い万年筆は鈍く光っていた。手に取るとずっしりと重く、これを使うときはいつも悩みながら何度眺めた白い星が目に入る。
 間違いない。私の大事な万年筆だ。二カ月ぶりにこれを手元に戻すことができたことに、感激で目に涙が浮かぶ。

「はい。じゃあ、五万円ね」
「え?」
「ん?」

 同時に怪訝な顔をした、真斗さんと私は顔を見合わせる。

「五万円も持っていませんけど?」
「は?」
「まだお金が用意できないから取り置き延長してもらおうと思ったんです。今日、五千円しか持っていません」

 私はこの万年筆を質入れしたのだと思っていた。だから、質流れを防ぐために利息を払いに来たつもりだったのだ。
 五万円は大学生の私には大金だ。そんなにすぐには用意できない。バイト代が入っても、お昼ご飯代やサークルの会費などにすぐ消えてしまう。特に、最近は健也のデート代を支払ったり、売れもしないライブのチケットを大量買いしていたせいで、貯金もゼロだった。

 唖然とした表情の真斗さんを見て、急激に不安に襲われた。

 真斗さんの説明では、質入れした際に期限内に利息を払えば取り置き延長してもらえるらしいが、それはあくまでも質入れした商品に言えることだ。今の話では、私の万年筆は質入れすらされていない、ただ単に真斗さんが好意でお金を貸した状態になっている。もしかして、今五万円払えなかったら取り上げられてしまう?

「もしかして、正式な質入れじゃないから取り置き延長不可?」

 シロが足元に擦り寄ってくる。もしここで手放したら、この万年筆とも、この温もりともお別れだ。私はギュッと万年筆を片手に握る。

「え、……いや、そういうわけじゃねーけど」
「じゃあ、もう少し待って下さい! 必ず近いうちに返すから」

 まさか、テレビドラマでよく見る借金取りに追われている人が吐く台詞を自分が口にする日がこようとは、夢にも思っていなかった。しかもまだ、若干十九歳でございます。
 必死に詰め寄る私にたじろぐように後退(あとずさ)った真斗さんは、チラリと地面に視線を移す。