「傘姫がおいでだ」
ハッとして花が顔を上げると、雨の中、赤い和傘を差した着物姿の女性が歩いてくるのが見えた。
(あれが、傘姫──?)
花は心の中で呟いて、静けさの中で息を呑む。
止む気配のない雨は、小路に鏡のような水溜りを作り、辺りを灰色に染めていた。
その、どこか浮世離れした幻想的な風景のせいかもしれない。視線の先にいる彼女の成りはどう見ても"人"なのに、ただ歩いているだけで神秘的だった。
象牙色の地に、鶴や光琳菊で彩られた扇と流水文が描かれた色留袖は、金糸の刺繍が見事な帯と調和すると落ち着きがあり、上品な印象を与えてくれる。
艶のある黒い髪を後ろでまとめて背筋を伸ばし、首をやや前に倒して歩く姿はたおやかで、同性の花ですら見惚れずにはいられなかった。
(すごく、綺麗──)
雨の中、石畳の上で彼女が立ち止まって、徐に顔を上げる。
雪のように白い肌が印象的な彼女は、赤い紅を引いた唇で緩やかな弧を描いて音もなく微笑んだ。
黒曜石のように淀みない瞳に見つめられると、目を逸らすことも叶わない。洗練された美しさに花は思わず息を呑み、次に彼女が動くまで微動打にすることもできなかった。



