「な、ないないないない……っ!!」
「もう! 花っ、俺のこと子供扱いするなよっ‼」
「あ……。ご、ごめんごめん、つい……」
照れているのか怒っているのか、どちらにせよちょう助は可愛い。
対して花は、自分が今とんでもないことを考えてしまったことに狼狽え、鼓動を激しく高鳴らせていた。
(ダ、ダメダメ! そもそも八雲さんにその気もないし、私だって地獄行きを回避するために嫁候補になってるだけなんだから……!)
頬を両手で包むと、僅かに熱くなっているのを感じて余計に落ち着かなくなってしまう。
花は慌てて深呼吸を繰り返したが、相変わらず胸の鼓動は高鳴っていた。
(とにかく今は、傘姫をおもてなしすることに集中しないと……!)
心の中で気合いを入れて、再度フン!と息を吐く。
窓の外では、木枯らしが吹いている。
花はそれを見て呼吸を整えると、まだ見ぬ傘姫の姿と、とろとろのビーフシチューを思い浮かべて思考を切り替えた。
♨ ♨ ♨
「雨、久しぶりに見たなぁ……」
数日後、八雲の予報通りつくもの庭を雨が濡らした。
しとしとと落ちてくる雫は細い糸のように、空と地面を繋いでいる。
ここへ来てから一度も雨を見ていなかった花は、今さら物珍しく思いながら手のひらに乗った雨粒を眺めた。
「……雨が降るのは、傘姫の心が泣いているからだと、以前、常世の神が言っておったのぅ」
モフモフの尻尾を揺らしながら、ぽん太が寂しげに呟く。真っ白な空には虚無感だけが広がっていて、何故だか花の心まで影がさしたような気持ちになった。
「傘姫の心が泣いているって──」
どういうことですか?と、花は思わずぽん太に尋ねようとした。
しかし、それはまた斜め前に立つ八雲によって遮られてしまい、口に出すことは叶わない。



