「熱海のポテンシャルが高いことはわかったんですけど、でも、和風のお宿なのに洋食を出すっていうのはありなんですかね……?」
花が尋ねると、ぽん太は「ふむ」と再び目を細めて胸を張る。
「それを言い出したら、付喪神が熱海に旅行に来るなんて……という根本的なところからツッコミが入るぞ」
清々しいほどの開き直りだ。それでも威風堂々と答えるぽん太は潔が良い。
「別に和食だろうが洋食だろうが関係ないじゃろ。大切なのは、お客様にいかに喜んでもらえるかということじゃからのぅ」
断言したぽん太を前に、花も納得せざるを得なかった。
確かに一番大切なのは、和風旅館で洋食といったギャップを考えることではない。
ここで、どのようにしてお客様に喜んでもらえるべきかを考えることなのだ。
お客様にとって最高の一日を提供する。
それがつくもで働く花たちが、成すべきことに他ならない。
「そしたら、ぽん太さんの言うとおり、洋食の肉料理で考えてみようか?」
ちょう助が言うと、花はまた「うーん」と腕を組みながら首をひねった。
「洋食の肉料理っていうと、それはそれでまた幅広いような気も……」
「ああ、それならその文豪たちに尋ねてみましょうか」
「え?」
「その、熱海の洋食に舌を唸らされた文豪たちから、何かヒントを得られるかもしれません」
それは一体どういうことですか──と、花が尋ねるより先に、黒桜はまた両手を開いて何かをぶつぶつと唱えはじめた。
「え──っ!」
すると今度は黒桜の手のひらの上に、黒くて分厚い辞書のようなものが現れた。
白い光を放つそれは、黒桜の唱える呪文のようなものに反応してパラパラと勝手にページが捲られていく。



