「それ、いいと思う。思いっきり手間ひまをかけてクオリティの高い一品に仕上げれば、品数を多く出すのと遜色ないものが出せるだろうし!」
ちょう助は表情を明るくして声を弾ませた。
それを聞いた花も笑みを浮かべて、ぽん太と黒桜の答えを待つ。
「……そうですね。食が細くても残す品の数が少なければ、傘姫を必要以上に恐縮させてしまうこともないでしょう」
黒桜も納得しながら微笑んだ。
「ふむ……。それで傘姫を満足させることができれば完璧ということじゃな」
けれどぽん太の核心をつく言葉に、またちょう助が「うーん」と難しそうに首をひねった。
「……ですよね。問題は、どんな料理をお出しすれば、傘姫を満足させることができるかってところで」
「虎之丞さんのときで言えば鯵みたいな、傘姫の好物を使った料理をお出しするとか?」
花がそう言って顎に拳を当てると、黒桜がポン!と軽快に手を叩いた。
「なるほど、それなら簡単ですよ。少々お待ちいただけますか?」
「え……」
黒桜はそう言うと、今度は両手を開いて何かを唱えだした。そしてパラパラとページを捲るような仕草を繰り返し、あるところでピタリと動きを止めて顔を上げる。
「ふむ。傘姫はああ見えて、魚よりも肉のほうがお好きみたいですね」
宿帳の付喪神である黒桜は、これまでの宿泊客のデータのすべてを自身の力でいつでも自由に引き出せるのだ。虎之丞のときもそうして、鯵好きを黒桜が教えてくれたのだった。
「ですから、肉を使った一品料理が良いかと思います」
「さすが、黒桜さん!」
「私の宿泊者名簿には、お客様の性格や趣味趣向を含めた、これまでの詳細な内容をすべて記してありますからね。そんじょそこらのパーソナルコンピュータというやつにも負けませんよ」
花が褒めると黒桜は鼻高々で胸を張った。パーソナルコンピュータ……パソコンとは確かに、ライバルが強力だ。



