「傘姫に気を遣わせることなく、お出しするものの量を減らす方法……ですか」
ちょう助に続いて黒桜が唸る。
「あ、それなら、思い切って一品料理にするってどうかな?」
ひらめいたのは花だ。思わず目を丸くした三人は、どういうことだと花を見つめて首をひねった。
「ほら、つくもって基本的に予約の時点でお料理はおまかせでしょ? だから最初から一品料理って割り切ってお出しすれば、傘姫も今回はそういうスタイルなんだって納得するんじゃないかなぁと思って」
笑顔を浮かべながら言う花は、身振り手振りをつけて話しを続けた。
「みんなももうご存知の通り、うち貧乏だったからさ? 毎回ご飯のときに、品数とか全然なくて……」
基本的には白米と味噌汁、それにおかず一品。更に言うとカレーならカレーのみ、鍋なら鍋のみで、最後に締めの雑炊を作って汁の一滴も残さないのが定番だった。
「誕生日とかの特別な日も同じで、料理の品数とか全然ないんだけど。でもその日だけは特別にね、私の大好きなハンバーグを、特別に大きく作ってもらえたんだ」
花が七歳のときに母が亡くなってからは、父が高校卒業を迎えるまでそうして誕生日を祝っていた。
「傘姫の事情はわからないけど、一年に一度だけ決まった日に来るなら、きっとその日は傘姫にとって特別な日ってことでしょう?」
花の質問に、またぽん太と黒桜が複雑そうな表情をする。
「特別な日に出される、特別な一品って、出されたほうにも特別な思い出になって、ずっと記憶に残るんだよね……。だから、もしかしたら傘姫にも言えることなんじゃないかと思ったんだけど……」
まつ毛を伏せた花は、今は亡き母の面影を思い出していた。
『誕生日、花は何がほしい?』
『ママが作ったハンバーグがいい! いつもより、もっともーっと大きい、でっかいの!』
それは五歳の誕生日を迎える数日前の記憶だ。母は幼い花の願い通り、誕生日当日にはいつもの三倍はあろう特別なハンバーグを焼いてくれた。
「だから、その日が傘姫にとって少しでも良い思い出になるような、心を込めた一品をお出しするのはどうかなと思ったんだけど……」
花が苦笑いを零すと、「……うん」と、ちょう助が頷いてから拳を握る。