「俺も八雲さんはすごく優しくて良い人だと思うけど……。逆に花は、八雲さんの何がそんなに気に入らないの?」

 ノートから顔を上げ、さも当然のように尋ねるちょう助は、八雲に助けられたという恩があるので疑問に思うのも当然なのだろう。

「そりゃあ確かに、少し無愛想なところはあるかもしれないけどさ。だけど今、黒桜さんが言ったみたいに見た目もすごくカッコイイし。いざというときには頼りになるし、特に文句をつけるところもないんじゃない?」

 子供の純粋無垢な瞳で見つめられると、花は怯まずにはいられなかった。しかし、だからといって、花にも譲れないものはあるのだ。
 嫁に行くというのはつまり結婚するということで、人生でも早々ない一大決心を「はいそうですね」と簡単に決められるわけもない。

「ちょ、ちょう助くんまで……。だ、だからね? 八雲さんが気に入らないとかそういうことより……そもそも私は自分が、付喪神様のお嫁さんになるとか考えられないし……」

「え?」

 もぞもぞと花が答えると、三人が一様に驚いた顔で目を見開いた。

「私は、どこにでもいるようななんの取り柄もない"人"だから、神様と結婚するとかまるで想像もつかないんだよね……。結婚ってこと自体、そんな簡単に決められるものじゃないのに、相手が神様だって考えたら余計に……」

 人と神様が結婚するなど、それこそ小説やアニメ、漫画の世界のファンタジーだと思う。
 もちろん今、花自身が経験していることもその類のものであるとはわかっているが、自分がファンタジーの世界の主人公になれるような特異を持ち合わせていないこともよくわかっていた。
 だから花は当然のように思いの丈を述べたのだが、三人は互いに顔を見合わせたあとで改めて花を見てから口を開いた。

「コホン……。花、お前さん、何か勘違いをしているようだがの」

「勘違い?」

 突然改まったぽん太を前に、花はキョトンとして首を傾げる。

「はい、そうですよ花さん。八雲坊は、付喪神ではありませんよ」

「……え? 八雲さんが、付喪神じゃない?」

「うん。八雲さんは、花と同じ"人"なんだよ。俺達とは違う、正真正銘の人、だよ」

 驚いた──というより、衝撃的だったと言ったほうがいいだろう。
 三人から告げられた言葉に、花は目を見開いて固まった。