「う〜〜んっ、口の中でトロケるぅ〜〜っ!」
二月も終わりに差し掛かる頃、つくもの庭では冬の花々が凛とした表情を見せていた。
熱海梅園でもお馴染みの梅の花を皮切りに、椿にスイセン。足元で深い緑の葉を広げ、見事な黄色の花を咲かせた植物の名が福寿草であることを、皮肉にも"花"はここへ来て初めて知った。
「花はなんでも美味しいって言うから、試食してもらってもあんまり参考にならないんだよな」
溜め息をついたちょう助の正面で、花は小さなカップの中に入った鮮やかな橙色のゼリーをすくってパクリと一口頬張った。
草花の名前を知るより、美味しいご飯を食べることに至福を感じる花の心は、まさに花より団子というやつだ。
「いやいや、だって、本当に美味しいんだもん! これなら間違いなくお客様も大満足、間違いなしだよ!」
今は、つくもの料理長であるちょう助が考案した新作メニューの試食の真っ最中。
花がつくもで働くようになってから早三週間。定期的に開かれる試食会は、花にとって何より楽しみな仕事のひとつになっていた。