「おお、久しぶりだのぅ! つくもの面々よ」
現れたのは、八十過ぎのご老体という割には屈強な身体つきをした大男であった。
侍を思わせる渋色の着流し姿で、前庭に敷かれた石畳を闊歩してくる様は実に威厳と風格に満ちていた。
「虎之丞様、本日は極楽湯屋つくもへようこそお越しくださいました」
八雲の言葉を合図に、後ろに控えていた花と黒桜も頭を下げる。
「ガハハっ、出迎えご苦労。八雲もこの一年でまた背が伸びたかのぅ……と、お前さんも流石にもうそんな年ではなかったか」
虎之丞の言葉に八雲は応えるように、長いまつ毛に縁取られた瞼を下ろした。
虎之丞は立っているだけで他者に威圧感を与えるような男であった。
豪快という言葉がこんなにも似合う男に会うのは初めてだ……と、花は思わず緊張で喉を鳴らした。
「……おい、なんだ。人がいるではないか。それも女だ、これは一体どういうことだ」
そのとき、虎之丞が花の存在に気がついた。
花はついビクリと肩を揺らして固まってしまったが、すぐにぽん太が虎之丞と花の間に割って入って仲介役をしてくれる。
「いかにも、虎之丞。この娘は名を"花"と言っての。実は仲居兼、八雲の嫁候補として、今はつくもで働いておるんじゃ」
「仲居兼……八雲の嫁候補だぁ?」
ぽん太の説明を聞いた虎之丞は太い眉を持ち上げて、花を見た。
そして「本当か?」と呟き花の目前まで詰め寄ると、改めてまじまじと花の姿を頭のてっぺんからつま先まで視線で撫でた。
「は、はいっ! 本当です! まだ仲居を務めさせていただいてから日が浅いのですが、今日は精一杯おもてなしをさせていただきますので、どうぞよろしくお願いしましゅ!」
……噛んだ。だが、今はそんなことを気にする余裕は花にはない。
「ほぉ……そうか。ハッ、八雲もようやく嫁をとる気になったのか。ガハハっ、いやぁ、こりゃめでたいこっちゃ。……のぅ八雲、お前さんも嫁をとったら、ようやく一人前と言うわけだ!」
「……っ、」
(ヒイ……ッ!)
次の瞬間、花は心の中で悲鳴を上げた。
というのも、そう言った虎之丞が八雲の背中をバンッ!と豪快に叩いたからだ。
これには流石の八雲も一瞬顔を顰めたが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻ると、「……ありがとうございます」と不本意そうな返事をした。
「では娘。今日はお前さんがどんなふうにもてなしてくれるのか、心から期待しておるでのぅ」
そう言う虎之丞は、花を見て黒い笑みを浮かべる。
対してぽん太と黒桜、八雲の三人は思わず眉根を寄せたが、当の花は緊張のあまり虎之丞の本心に気がついていない様子で元気よく頷いた。



