「お待たせしました、こちらが当店自慢の"活きあじフライ定食"です!」
ランチタイムに訪れた三人は、揃ってお店イチオシと打ち出された【活きあじフライ】の定食を注文した。
しばらくもしないうちに出てきた定食には、なんと目的のアジフライがドーンと二枚も乗っている。
「わぁっ、もう見た目からして美味しそう……!」
思わず声を上げた花は目を輝かせてお盆に乗せられた品々を見つめた。
「あ……、これはどういうことだろう?」
まず、花が注目したのはお盆の端に乗せられていた小さなすり鉢だ。中には白胡麻が入っており、小さなスリコギもついている。
「それは、これですり胡麻を作れってことだよ」
「すり胡麻を?」
「そう。で、擦り終わった胡麻とソースを合わせて、アジフライにつけて食べるんだ。もちろん好みで、醤油でもいけるけど」
つまり、アジフライが二枚あるのは二種類の味を楽しむためでもあるのだろう。
擦りたての胡麻の入ったソースと、定番の醤油。どちらの味も楽しめるというお店の粋な計らいに、花は感嘆の溜め息を洩らした。
「ははぁ、なるほど。一度に二度楽しめるパターンですね! うーん……どっちから食べるか迷うけど、やっぱりまずはちょう助くんが教えてくれた、すり胡麻ソースからかなぁ」
そう言った花は、すり鉢を手に取った。
するとちょう助はしれっとした顔で、「じゃあ俺は醤油から食べる」と嘯いてみせる。
「わしは蟹の味噌汁からいただこうかの」
ぽん太が手を伸ばしたのは口の広い椀に入った味噌汁である。店の入口には【本日のお椀】と出ていたので、その日によって内容も変わるのだろう。
「よし……! こんな感じでいいかな?」
それから数分、花は熱心にすり鉢と向き合った。自分で擦り具合を調整できるというのはある意味嬉しい。潰しすぎず、ほどよく胡麻の粒を残した花は、ソースの入った小皿の中にすり胡麻を移した。
そして箸を手に取り、ふたつをサッと混ぜ合わせる。
その瞬間ほのかに芳ばしい胡麻の香りとソースの酢の匂いが鼻先をかすめて、思わず顔が綻んだ。
「いただきます……!」
準備を終えた花は、満を持して活きあじフライに箸を伸ばした。
大きなアジフライは齧り付くのもいいが、まずは試しに箸で食べやすい大きさに切ってすり胡麻ソースをつけるのがいいだろう。
(わ……っ!)
箸を入れるとサク……ッという小気味の良い音が鳴り、ジュワッと油が染み出してくる。
揚げ立てホクホクのあじフライは小ぶりながら肉厚で、身の中は真っ白だった。
早速、自分で用意したすり胡麻入りソースにつけ、一口で頬張ってみる。
「ん、ん~~~っ、美味しい……っ!」
噛んだ瞬間、旨みがいっぱいに広がった。
前評判通りの活きあじフライは身がしっかりしているのにジューシーで、食べ応えも抜群だった。
粗めのパン粉がサクサクとした食感を生み出しているのも最高だ。
ホロホロと口の中で崩れる身は鯵の旨味をいつまでも口の中に残して、最後には胡麻の風味が鼻を抜けるという極上の一品だった。



