「あの、ぽん太さん……これは提案なんですけど」
「なんじゃ、まだ何かあるのか?」
「これからする熱海観光、ちょう助くんも一緒に連れていくことってできないですか?」
花の突飛な提案に、ぽん太が目を丸くする。
花自身も咄嗟に思いついたことで、なんの計画性もない提案だった。
「あの、その……こういうのって、たくさん人がいたほうが楽しいだろうし」
「しかしお前さん、今朝方ちょう助と揉めたばっかなんだら?」
確かにぽん太の言うとおり、花はちょう助とつい数時間前に揉めたばかりだ。
厨房から締め出され、取り付く島も与えてもらえない状況だった。
「はい……。でも、だからこそ、なんとかして仲直りがしたいというか。もう一度、どうしてもきちんと話がしたいんです。だから、どうにかなりませんか、お願いします!」
ぽん太を前に、花はペコリと頭を下げた。
仮にもし、週末の虎之丞へのもてなしが無事に済めば、花は一年もの長期間、つくもで仲居を務めることになる。
その間、唯一の仲居である花が厨房へと入らずにいるなど到底無理な話だろう。
配膳もしなければならないし、何か緊急時には手伝いが必要なときもあるかもしれない。
「虎之丞さんのことはもちろんですけど……私、せっかくなら、ちょう助くんと仲良くなりたいと思ってるんです」
付喪神であるちょう助と、人である花が仲良くなろうなど、烏滸がましいことなのかもしれない。
その上ちょう助は、人嫌いであることを宣言しているのだ。ちょう助に近づこうとするのは花の身勝手なワガママに違いないし、ちょう助からすれば迷惑以外の何物でもないかもしれない。
「自分勝手だとはわかってるんですけど……でもやっぱり、私にはちょう助くんの力が必要なので」
そう言う花が思い出したのは、今朝の温かい朝食だった。
ちょう助に拒絶され、意気消沈しながら朝の仕事を終えた花は一度、自室へと戻った。
すると自室には既に朝食が置かれており、膳の上にはちょう助と揉めたときに噴きこぼれたアラ汁が乗っていた。
「揉めたあとだったのに、ちょう助くんはちゃんと私の朝食を用意してくれていたんです。だからきっと、心根は優しい子なんだろうなと思ったし、どうしてそんな子が人嫌いになったのかも気になるから……」
花を睨みつけるちょう助の、どこか寂しさを抱えた瞳が今も花の目には焼き付いている。
「難しいことは承知の上ですし、こうすることで余計に嫌われちゃうかもしれないけど……。それでもこのまま、何もしないでいるのは嫌なので。だから、ぽん太さんから一度、声を掛けてもらえませんか? 私がいることは伏せて、一緒に現世に遊びに行こうって、ちょう助くんを誘ってみてほしいんです!」
花は真っすぐに、ぽん太のつぶらな瞳を見つめた。
真摯な言葉を受け止めたぽん太は、「うーん」と考えてから穏やかな笑みを浮かべる。



