「……そういえば、もう一月も終わりかぁ」
ぶるりと震えた身体を抱き締めるようにして、花はひとり、外を眺める。
住み込みのために用意された和室には小さな縁側がついており、砂利の敷かれた庭に続く石段には、下駄が一足置かれていた。
「はぁ……」
吐き出された息が、白く濁る。
八雲に威勢よく啖呵を切ったものの、このままでは何もせぬまま週末を迎えることになるかもしれないと、花は焦燥感に苛まれた。
「本当に、無事に現世に帰れるのかなぁ」
虎之丞が泊まりに来るのは土曜日だ。火曜日である今日を抜かせば、あと三日しか猶予はない。
(もし虎之丞さんを怒らせて仲居を辞めることになったら、私は将来地獄行きか……)
考えれば考えるほど、絶望感に襲われる。
つい弱気になった花は、つい一昨日までいた自分が帰るべき現世に思いを馳せた。
今、外の世界はどうなっているのだろう。
まだこちらに来て二日しか経っていないというのに、以前までの日々が遠く感じて、恋しくてたまらなくなる。
数日前に見た天気予報では今週からまたより一層寒さが厳しくなると言っていたし、海沿いの街熱海にも、雪が降ることもあるのだろうか。
(ここに来た日も、引越し屋が来るのが遅れたせいで、熱海観光も全然できなかったんだよね)
せっかくの観光地に来ているというのに、花は旅行気分も味わえないまま今に至る。
「こんなことになるくらいなら、せめて熱海観光くらいしたかったな……」
「それなら、熱海観光すればええ!」
そのとき、突然花の目の前で、ポンっ!と白い煙が弾けた。
「え……。ひっ、わぁ……っ!?」
思わず後ろにひっくり返りそうになった花は既のところで踏みとどまると、バクバク高鳴る胸の鼓動に手を当てる。



