「どうしよう……」
見えない壁の前で絶望した花は、呆然と立ち尽くした。
よもやこんなことになろうとは思いもしない。
「ちょう助くん! お願い、開けて! どうしても、ちょう助くんの力が必要なの!」
花は精一杯声を上げたが、心を閉ざしたちょう助には届かない。
(ど、どうしよう……。これじゃあ、虎之丞さんを満足させることなんて絶対にできないよ)
絶望が、花の脳裏を駆け巡る。このままでは花は確実に、地獄行きが決定的なものとなる。
「……廊下で騒ぐな、騒々しい」
そのとき、低く心地の良い声が花の耳に届いた。
「や、八雲さん……」
現れたのは八雲だ。いつからそこにいたのか、着物の袖に両の手を入れた八雲は溜め息をひとつ零すと、床板を踏み鳴らしながら花のそばまでやってくる。
「ちょう助に締め出されたか。こうなってしまったら、ただの人であるお前の力では中に入ることは不可能だ」
つくもの厨房を任されているちょう助は、つまるところつくもの厨房のすべてを牛耳る力を持っている。
そのちょう助に拒絶されてしまえば、決して中へと入ることは叶わないということだ。
少なくともちょう助の心が開かれるまでは声を掛けることすら不可能だと、八雲は花に淡々と説明した。
「そ、そんな……。じゃあ一体、虎之丞さんのことは、どうすればいいんですか?」
八雲の説明に顔色を青くした花に対して、八雲は小さく鼻を鳴らして一蹴する。
「そんなことは自分で考えろ」
「……はい?」
「ちょう助を怒らせたのはお前の責任だ。俺の知ったことではない」
そうして八雲は着物の裾を翻し、颯爽と踵を返した。
八雲は驚く花を尻目に、本当にそのまま立ち去ろうとしてしまう。



