「週末に宿泊予定の、虎之丞さんのことなんだけど」
「虎之丞って、まさか掛軸の虎之丞?」
「あ……うん。多分その、虎之丞さん。それでね、虎之丞さんをおもてなしするのに最適なお料理は何がいいか、ちょう助くんに相談しようと思って来たんだ」
花の言葉に、ちょう助の表情があからさまに曇った。
「登紀子さんのお弟子さんのちょう助くんなら、きっとなにかいい案を思いつくんじゃないかと思って。それに、ちょう助くんの作ったご飯、今まで食べてきたどんなご飯よりも、美味しかったから……」
お世辞ではなく、花は本気でそう思っていた。
昨日出された賄いも、米粒ひとつ残さず綺麗に平らげた。
「虎之丞さん、鯵が好きみたいなんだ。だから、鯵を使った何かをお出しできたら、虎之丞さんも喜ぶんじゃないかと思ったんだけど」
仮にも、あのまご茶漬けを作ったちょう助なら、きっと虎之丞も満足する料理を作れるはずだと花は思った。
そしてきっと、ちょう助も同じように虎之丞を満足させる料理を作るために一役買ってくれるに違いない。
「ちょう助くん?」
「……け、」
「え?」
「……出てけ。出てけよっ! あっちにいけ!」
だけど、そんな花の想いはちょう助には届かなかった。
「今すぐ出てけって、聞こえなかったのか! 俺は人に協力なんてしないからな!」
それまでになく強い口調で言い放たれたちょう助の言葉に怯んでいるうちに、花の身体は強い風に押し戻されて、厨房の外へと締め出された。
「え……え? あれ? え……っ、ちょ、ちょう助くん!?」
何が起きたのか、花は混乱せずにいられないほどすべてが一瞬の出来事だった。
厨房は目の前にあるのに、入ろうとしても中へは入れない。
それは、ちょう助の花に対する絶対的な拒絶で厨房の主であるちょう助の力によって中に入ることは愚か、ちょう助の顔を見ることさえ許されなくなってしまったのだ。



