「俺は、人が嫌いなんだよ」
「人が……嫌い?」
「そうだ。だから、お前とも話したくないし、早くここを出ていってほしいと思ってる」
思いもよらない言葉に、花はごくりと息を呑む。
「どうして八雲さんは、寄りにもよってお前みたいなのを嫁候補にしたんだろう……。洗ってもいない手で調理場を触ろうとするし、うるさいし、面倒くさそうだし……。本当に、最悪だ」
言い終えてそっぽを向く様は、花の中でのいけ好かない男ナンバーワンの八雲の姿を思わせた。
ただ、八雲と違ってちょう助は怒っても可愛い、などとは口が裂けても言えそうにない。
黒目がちな瞳とクリっとした目元にはあどけなさが残り、憎まれ口を叩いたところで冷たさまでは感じさせないが、さすがに初対面で「最悪」まで言われるとは予想外だった。
(っていうか、人が嫌いって……)
花は呆然としてしまい、返す言葉が見つからない。
八雲はさて置き、ぽん太や黒桜、鏡子といった付喪神たちには見られなかった反応だ。
本来であれば人に使われる道具である付喪神が人嫌いとは、一体どんな道理だろう。
「わかったなら、早く厨房から出ていけよ。俺はひとりでここを任されてるし、お前と違って、すごーくすごく忙しいんだ」
プイッと顔を逸らしたちょう助は、憎まれ口を叩いても可愛らしい子供だった。
それにしても宿の厨房を、小さな男の子ひとりが担っているなど現世では到底有り得ない話だが、ここではさしたる問題でもないのだろう。
(ってことは、あのまご茶漬けも……)
きっと、ちょう助が作ったものだ。
つまり昨日花が食べた食事も、これから花が食べるものもすべて、ここでちょう助が作って出すということに違いない。
「俺は、これ以上お前と話す気は──」
「ちょ、ちょう助くんの作ったご飯! すっっっごく美味しいね!」
「……は?」
唐突に口を開いた花に対して、ちょう助は怪訝な顔をする。
「い、忙しいのにごめんね。でも、どうしても、それだけは伝えたくて……。あと、できることなら、ちょう助くんに相談したいことがあるんだけど……」
遠慮がちに口を開いた花は、ようやく本題を切り出すことに成功した。



