「……昨日も思ったけど、ここだけはやけに近代的だよね」
思わず独りごちた花は改めて周囲を見回す。
約十畳ほどの広さの厨房は、決して広くはないが使い勝手は良さそうだった。
オーブンやら業務用の大型冷蔵庫なども完備されており、真ん中に置かれた調理台や洗い場もステンレス製だ。
その他の調理道具も現世では見慣れたものばかりで、それぞれきちんと整理整頓がされた様子は、ここの主の生真面目さを表していた。
日本情緒豊かな風格を見せるお宿に、まさかこんなに近代的な場所があるとは一体誰が想像できるだろう。
まるでここだけが現世にあるようで、花はついぼんやりと、その場に立ち尽くしてしまった。
「……っ!」
そのとき、火のついていた鍋から吹きこぼれた味噌汁が、ジュワッ!と威勢のよい音を鳴らして煙を噴いた。
花は一瞬、何事かと固まったが、すぐに我にかえると音の出どころへと目を向けた。
「わ……っ、大変……!」
コトコトと鍋の蓋が暴れている。
慌てて火のそばに駆け寄って、花はコンロのツマミを回そうとした。
「勝手に触るな……っ!」
(え……っ)
けれど、既のところで声が割って入り、花は足を止めた。
直後、タタッと小気味の良い足音を鳴らして駆けてきた影がコンロの前で止まり、吹きこぼれた鍋の火を消し止めた。
「くそ……っ、せっかくのアラ汁が……。余計な邪魔が入ったせいだ」
声の主が臍を噛む。
花が味噌汁だと思っていたそれは、どうやらアラ汁だったらしい。
朝食前の花はついゴクリと喉を鳴らしたが、突然目の前に現れた"その人"──いや、"その子"を前に、言葉に迷ってしまった。



